ミサイル防衛を巡る米ロの対立が日ロ関係に飛び火

 プーチン大統領は昨年末の記者会見で、こうした米国の批判に真っ向から反論し、「我々は国際安全保障の要である主要な軍縮条約から脱退することはない」と断言した。逆に米国はかつて、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約から一方的に脱退しており、INF廃棄条約についても「米国が離脱に向けた情報・宣伝工作をしている」などと非難した。

 米ソ間で1972年に締結したABM制限条約は、弾道ミサイルの迎撃を目的としたミサイルシステムの開発を厳しく制限したものだ。米国はブッシュ政権下の2001年末、ミサイル防衛(MD)計画の障害になるとして一方的に脱退を宣言し、同条約は2002年に失効している。INF廃棄条約もまた、米国の一方的脱退という形で失効せざるを得なくなる懸念があると警告したわけだ。

 それだけではない。プーチン大統領は「彼ら(米国)は何とかして我々を叱責し非難しようとするが、自らは一体何をしているのか」と苦言を呈し、米国が2016年5月にルーマニア南部で運用を始めた地上配備型の迎撃ミサイル発射基地をやり玉に挙げた。

 ルーマニア基地のシステムは米国が主導する欧州でのMD計画を構成する一部となっているが、プーチン大統領は弾道ミサイルを追跡する艦載イージスシステムを地上に設置したものだと強調。迎撃ミサイルの代わりに短・中距離の弾道、巡航ミサイルを装備するのは容易で、「米国は既に実質的にINF廃棄条約から離脱している」と主張した。

 プーチン大統領は昨年末に開いた国防省幹部との会合でも同様の主張を展開し、米国の行動は「欧州や世界の安全を損なう」と非難。米国がもたらす潜在的脅威に適切に対処する必要性も強調している。

 ロシアが米国のMD構想とINF廃棄条約問題を絡めて批判し始めたことで、思わぬ影響が日ロ関係にも飛び火している。ラブロフ外相は今年1月の記者会見で、日本政府が導入を決めた地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」について、ルーマニアなどに配備されたシステムと同様、「攻撃兵器も装備できる万能型の発射システム」とみなしていると明かした。

 日本政府はイージス・アショアを日本が運用する、巡航ミサイル「トマホーク」などの装備は不可能だ、などと説明するが、ロシア側は全く納得していない。そもそもイージス・アショアの導入は北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対処するためだとする日本の主張も、ロシアでは説得力を欠く。むしろロシアや中国を標的にした米国の世界的なMD網配備の一環とみなしている。

 いささか古いが、政府系の全ロシア世論調査センターが昨年5月の世論調査で、ロシアに対して核兵器など大量破壊兵器を使う恐れがある国・組織はどこかを聞いたところ、回答者の50%が米国を挙げ、北朝鮮は13%にすぎなかった。こうした日ロの認識の差異も背景にあろうが、イージス・アショアの日本配備に警戒を強めるロシアが今後、INF廃棄条約の無力化に加担しているとの主張を軸足に据えて日本批判を強める恐れは十分にある。

 話を米ロに戻そう。核戦力をめぐる対立が今後激化するようだと、INF廃棄条約だけでなく、米ロが2010年に調印した新戦略兵器削減条約(新START)の行方にも負の影響を与えかねない。両国が配備する戦略核弾頭数を大幅に制限した同条約は2021年に有効期限が切れる。最大5年の延長が可能だが、トランプ大統領は「悪い合意」「一方的な取引」などとしばしば批判している。

 プーチン大統領は「もし米国が新STARTからも一方的に離脱するようなら、世界の安定と安全の維持という観点から大きなマイナスになる」と警告するが、先行きは一段と不透明さを増す。米ロの長引く冷たい関係は、両国が長年にわたって積み上げてきた核軍縮合意も台無しにしかねない危うさを抱える。