トランプ政権の「核兵器重視」で「核軍縮」が台無しに

 トランプ米大統領は昨年12月、安保政策の指針となる「国家安全保障戦略」を発表した。新戦略は中国とともにロシアを、米国の国益や国際秩序に挑戦する「修正主義国家」と断じ、競争勢力と位置づけた。ロシアについては軍備力も再び蓄積しているとし、強い警戒心もあらわにした。

 国家安保戦略の発表を受け、米国防総省は今年1月中旬に「国家防衛戦略」を公表。中ロを「戦略上の競争相手」とし、大国間の競争が最優先の懸案になるとして核抑止力やミサイル防衛といった米軍の体制増強を進める必要性を強調した。ロシアが核戦力の増強・近代化を進めていることもあえて指摘した。

 トランプ政権はさらに、米国の核戦略の指針となる「核体制の見直し(NPR)」を近くまとめる予定だ。米メディアなどの報道によれば、「核なき世界」を唱えたオバマ前政権が2010年にまとめた前回のNPRを大幅に修正し、核兵器を再び「重要な要素」と位置づけてその役割を拡大する方針を明記。核戦力の優位性を保つことで、中国やロシアの脅威に対抗する姿勢を強調するという。

 冷戦時代に米ソが核軍拡を競った名残で、世界の核弾頭の9割以上をいまだに米ロが保有する。経済規模、国防支出額、生活水準、国際社会への影響力などほとんどの分野で米ロ間に圧倒的な差が生じるなか、核戦力はほぼ例外的に双方の力が均衡する分野だ。両国間の核軍縮交渉は当然、最重要の懸案となり、緊張緩和と関係改善を印象づける象徴ともなる。

 ところが、トランプ政権が中国とともにロシアを「戦略上の競争相手」とみなし、特に核戦略の分野でロシアへの対抗姿勢をむき出しにするようなら、核軍縮に向けた米ロの歩み寄りは望み薄だ。それどころか、両国間の既存の核軍縮合意の継続もおぼつかなくなる。既にその兆候が垣間見られている。

 米国務省は昨年12月、ソ連時代の1987年に米ソ間で締結し、翌88年に発効した中距離核戦力(INF)廃棄条約についての声明を出し、ロシアが条約に違反していると非難。今後のロシアの対応次第では対抗措置として、米国も中距離ミサイルの研究開発に乗り出す意向を示した。

 INF廃棄条約はアイスランドのレイキャビクでの首脳会談を経て、レーガン米大統領とゴルバチョフ・ソ連共産党書記長(いずれも当時)がワシントンで調印した画期的な核軍縮条約だ。射程500~5500キロメートルの短・中距離の地上配備の弾道、巡航ミサイルを発効から3年以内に全廃すると規定したもので、欧州の緊張緩和とその後の東西冷戦終結に向けた大きな一歩となった。

 米国務省の声明は、その歴史的な核軍縮条約の調印からちょうど30年の節目に合わせて出された。米政府はオバマ前政権時代からロシアの条約違反を指摘。トランプ政権も昨春、ロシアが欧州向けに新型の地上発射型巡航ミサイル「SSC8」を実戦配備したとし、INF廃棄条約に抵触すると非難してきた経緯もある。ただ、米国が今回の声明通りに中距離ミサイルの開発に着手するようであれば、INF廃棄条約の形骸化は避けられない。

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