日本の「イージス・アショア」を警戒

 中国ほどあからさまではないとはいえ、在韓米軍に配備されたTHAADへの警戒感はロシアでも根強い。さらにここに来て、ロシア軍幹部や安全保障関係者が注視し警戒を強めているのが日本の動向だ。日本政府は昨年、北朝鮮の弾道ミサイル発射に備えて、地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」の導入を決めた。ロシアはこれを「中ロを標的にした米国の世界的なMDシステム構築」の一環とみなしているのだ。

 「イージス・アショア」の導入問題は昨年11月、河野太郎外相がモスクワを訪問し、ラブロフ外相と会談した際に主要議題の一つとなった。

 ラブロフ外相は日ロ外相会談後の共同記者会見で、「世界的なミサイル防衛(MD)システムの要素を実際に展開しつつある米国の計画は懸念せざるをえず、アジア太平洋地域の安全保障に極めてマイナスの影響を与える」と指摘。THAADを配備した韓国と同様、日本も米国のMDシステムの一部が配備される地域になるのではないかと強く心配していると表明した。

 米国はかつて、北大西洋条約機構(NATO)のMDシステム構築の理由を「イランのミサイル攻撃の脅威から欧州を守るため」と説明していた。しかし、とくにウクライナ危機後はロシアの軍事的な脅威に対抗する狙いが浮き彫りになっている。ラブロフ外相は「アジアでは北朝鮮の脅威を口実にしているが、地図を見ると分かるように、米国のMDシステムが絶妙な形でロシアと中国を包囲するのは明白だ」とも非難している。

 ロシア側の懸念は昨年12月、ロシア軍のヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長が来日した際にも日本側に伝えられた。ウクライナ危機の影響などで長らく延期されていた制服組トップの来日がようやく実現し、北朝鮮の核問題を含めたアジア地域での軍事・安全保障協力の強化を期待した日本側にとっては、想像以上に厳しい会談となったようだ。

 ロシアからはさらに、脅しともいえるような気がかりな発言まで飛び出している。イーゴリ・モルグロフ外務次官が「日本政府がイージス・アショアの導入を決めたことはロ日関係、とりわけ平和条約の締結作業に否定的な影響を与える」とロシアの通信社に語っているのだ。

 モルグロフ次官は北方領土での日ロ共同経済活動を始め、領土問題を含めた平和条約締結交渉の直接の担当者だ。ロシアが今後、北方領土問題の解決を先延ばしする言い訳に使う懸念は否定できない。

 昨年12月、国連安全保障理事会は北朝鮮に対する追加制裁決議案を全会一致で採択した。新決議は北朝鮮向けの石油精製品の輸出の9割削減、海外で働く北朝鮮労働者の2年以内の送還などを打ち出した。

 米国と中国の間で事前にすりあわされた決議案は採択の直前、ロシアの要求で修正が加えられた。当初案では北朝鮮労働者の送還時期が1年以内だったが、それに難色を示したのだ。ロシアには現在、約3万5000人の北朝鮮労働者がいるとされ、「全員送還させるのに2年はかかる」というのが理由だったという。人件費が安く重宝する労働力を失う経済的な不利益を先延ばしする思惑とみられ、北朝鮮の核問題で主導権を握ろうとしたわけではない。

 ロシアは軍事的な選択肢もちらつかせる米国の姿勢を批判し、北朝鮮の核問題の平和的解決に向けた対話の仲介役にも意欲を示す。ただ、北朝鮮への影響力は極めて限定的だ。かつ北朝鮮の核の脅威に対する認識も日米ほど高くはない。ロシアが北朝鮮の核問題を注視し懸念するのは、核拡散の脅威や朝鮮半島有事への警戒よりも、アジアでの米国のMD網構築の行方に重心が置かれているとみるべきだろう。