「なんてったってアイドル」は時代へのアンチテーゼ

1985年に発売した小泉今日子さんの「なんてったってアイドル」の歌詞は、当時のアイドル像を表す分かりやすい詞ですね。

秋元:この歌詞を書いたのは実はロックがブームになっているときでした。本田美奈子がワイルド・キャッツを結成したり、菊地桃子がラ・ムーを結成したりと、アイドルが相次いでロックの世界に進出している時期でした。キレイな服を着てキラキラ踊るアイドルなんて、もうかっこ悪いという印象が社会にあったんです。そんななかで書いた「なんてったってアイドル」は、僕にとっては「アイドルって最高じゃないか」という一種のアンチテーゼみたいなものでした。きっと、時代に合った曲を作ろうとマーケティングをしていたら、あの歌は生まれなかったと思います。

素人へのシンパシーでブレイク

同じころ、おニャン子クラブがデビューします(1985年)。今までとは全く異なるアイドルですが、なぜ大衆に受け入れられたのでしょうか。

秋元:僕がこれは売れるなと思ったのは、番組の中でMCの子が「今日は新田恵利ちゃんが中間テストのためにお休みです」と言ったときですね。ここに全ての価値観をひっくり返すものがあったんですよ。

 つまり昔は、アイドルと言えば堀越学園の芸能コースに通っていて、学校を休むことすらもカッコいい、特別に選ばれた人という印象でした。80年代で言えば、芸能界が憧れの頂点という一つの流れもありました。

 しかし、山口百恵さんの引退やキャンディーズの解散などがあり、「皆があんなにまで拘っていた頂点ってなんだったんだろう」と思い始めていたんですね。あそこまで素晴らしいと思っていた夢の世界なのに、普通の女の子がテレビより中間テストを優先したんです。これは画期的だと思いました。これが、当時の中高生にとっても衝撃的で、「俺もテストなんだよ!」という共感を呼びヒットしたんです。まるで女子高生の放課後を金網越しにのぞき見ているような感覚です。

“空腹”時にタイミングよく出せるかどうか

 僕は学生時代から劇団が好きで、彼らが小さな劇場から徐々に大劇場に移るのを見て、「ああ、成長が目に見えるっていいな」と思っていました。最初は同じように劇団を作ろうと思い原宿や青山を探したのですが、なかなかいい場所が見つかりませんでした。たまたま秋葉原にいい所があったので、秋葉原なら劇団よりアイドルのほうが面白いと思い、2005年にAKB48のプロジェクトを始めました。

 このときもマーケットのニーズなどは考えていなくて、色んな人に反対されました。でも、「毎日劇場で公演をし、成長の過程が見えるアイドルって面白そう」と僕は単純に思っていたんです。このころちょうど違法ダウンロードや不正コピーも出始めていて、これから生き残るのはやっぱりライブだなという思いもありました。

 結果、2005年12月にオープンし、翌年2月には専用劇場が満員になりました。ネットの口コミ力が大きいですね。「すごいもの見つけた」って、秘密基地を見つけたみたいな感じで一気に拡散していきました。

 アイドルが大衆を変えたり、時代にあった仕掛けをしたりするわけではありません。大衆が望んでいるときに、それを登場させることが重要なんです。夕方部活でお腹を空かせた野球部員に、タイミングよくカツカレーを出せるかどうか。これこそが、ブレイクの境目です。おニャン子のときは素人に、AKBのときは成長するアイドルにシンパシーを感じることが、大衆の“お腹具合”だったのだと思います。

2月22日に開催された小嶋陽菜さんの卒業公演。既に卒業した人気メンバーも登場し、小嶋さんの卒業を見守った。(画像提供:©AKS)