日経ビジネス4月4日号の特集「移民ノミクス」では、多様性を成長の力とするためにも、企業は前向きに外国人を受け入れるべきだと提言した。人口減少が進む中、経団連を中心に産業界でも多くの企業のトップが移民政策の必要性に言及している。
そんな中、「それでも私は移民に反対」と声高に主張する、上場企業の元経営者がいる。それが、半導体の搬送機器などを手がけるシンフォニアテクノロジー(旧神鋼電機)で社長や会長を務めた佐伯弘文氏だ。独自に移民問題の研究を続け、2010年に『移民不要論』という書籍を発刊した同氏に、移民反対を主張し続ける理由を聞いた。

1939年兵庫県生まれ。1962年に東京外国語大学英米科卒業し、日本ガイシに入社。1964年に神戸製鋼所入社。専務取締役 を経て2000年、神鋼電機(現シンフォニアテクノロジー) の社長に就任。会長を経て2009年から相談役。2011年に相談役を退任。

2010年に『移民不要論』という書籍を出版するなど、日本で移民を増やすことに反対し続けています。
佐伯弘文氏(以下、佐伯):自分は海外駐在の経験が長く、海外の知人が多い。2008年ごろから、欧州の友人に会うたびに「日本は絶対に移民の受け入れをしない方がいい。欧州の失敗に学ぶべきだ」と助言される機会が増えた。
それをきっかけに自分なりに移民の弊害について研究し始めた。これが、移民問題の本を執筆した経緯だ。経営者がこういう本を書いたもんだから、移民賛成派が多い経済界には衝撃が走ったようだ。
治安の良さを大事にすべき
私が言いたいのは、日本の治安の良さという資産は、カネには替えられない大変な価値ということだ。夜中でも女性が一人で歩けるような安全な国が、日本以外にどこにあるのか。この治安の良さと民度の高さは大事にするべきだ。
だからこそ、労働力や経済規模を維持する対価として、この安全性を失うのは大きな社会的損失だと思っているわけだ。経済的観点だけで、移民政策の是非を判断すべきではない。日本の経済界は、移民政策を経済的な観点からしか考えてないから問題がある。
欧州の知人からは具体的に、どのような警鐘があったのでしょうか。
佐伯:端的に言うと、「移民が入って来たら治安は悪くなる」に尽きる。移民を受け入れ始めた欧州各国では、移民が一部地域にまとまって住むようになっている。既存のコミュニティーと融合できずに町の中に治安の悪いエリアが生まれてしまったんだ。これは大変な社会的損失だよ。
なぜ、移民がまとまった地域に住むようになってしまうのか。それは、どうしても移民が差別されてしまうからだ。欧州の多くの街では、移民が多いエリアは結果的に、犯罪率が高くなっているという現実がある。
安易に移民を受け入れて、日本全国にそんな場所がいくつもある状態になってしまっていいのだろうか、と思うよね。
日本の場合、さらに問題が大きいと思うのは、文化が独特だからだ。近隣諸国からは戦後、移民が日本に入ってきているが、同じ民族同士で固まってコミュニティーを作っている。やはり、近隣の国同士とはいえ文化や考え方が大きく異なるから、うまく既存の日本人住人と融和できているとは言い難い。
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