場所や国籍を越えて支援する「電脳移民」
リヒャルト氏の考えは、瞬く間にベルリンの起業家ネットワークに広がり、協力者が相次いだ。構想から5カ月の準備期間を経て、プログラムが始まった。今では、大手企業も巻き込んでいる。
「難民から才能ある人材を発掘し、ドイツの社会イノベーションにつなげる」という趣旨に賛同し、ReDIスクールの運営費用の支援を決めたのは独鉄鋼販売大手クロックナーのギスベルト・リュールCEO(最高経営責任者)。海外では、米マイクロソフトや米シスコなどが教材などを支援する話を進めている。さらに今年2月には米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOも妻と共にベルリンのReDIスクールを訪れた。「素晴らしい取り組み」と絶賛したザッカーバーグCEOは、その場で運営費用の支援を即決したという。
活動は今ではドイツの企業団体からも注目されている。情報通信系の業界団体、BITKOM(ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会)は、ドイツ国内で不足している情報技術者4万3000人を補完する人材として、難民に期待する。「ReDIスクールのような活動は、企業団体としても支援していきたい」とBITKOMの担当者は言う。
ReDIスクールを立ち上げたリヒャルト氏のような社会起業家の活動は、ドイツだけでなく、フランスや英国、スウェーデンなどへと広がっている。場所や国籍を超え、情報技術を活用して難民支援活動を展開する彼らは欧州で「Techfugees(電脳移民)」と呼ばれ、注目を集めている。
もちろん、こうした活動で難民問題が解決するわけではない。ReDIスクールの展開が今後広がったとしても、とうてい全ての難民を受け入れることは不可能だ。それでも、排斥運動の裏で、政府などの支援を待つのではなく、草の根レベルで難民に関する社会課題の解決に取り組む動きは着実に広がっている。新たな社会イノベーション、そして新たなビジネスが生まれる可能性は十分にある。
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