
3月6日、日曜日。ベルリンのポツダム広場に近い、大学のキャンパスを訪ねた。指定された午前10時少し前、校舎3階の教室に足を踏み入れると、複数の若い男女がノートパソコンを囲んで熱心に話し込んでいる。記者の姿に気づくと、「Hi!」と目配せをしながら挨拶をしてきた。
外見や立ち居振る舞いからは、とてもそう見えないが、全員がこの半年以内にドイツに渡ってきた難民だ。シリア、アフガニスタン、エリトリアなど、出身国は多岐に渡る。
定刻の午前10時になると、指導役の講師がレクチャーを始めた。「今日は、簡単なプログラムを作ってみよう」。受講生たちは、静かにキーボードを叩きながら、講師の話に熱心に耳を傾けている。一通りの内容を話し終えると、講師は「では実際にコードを書いてみて」と指示を出した。その後1時間以上、教室は静まり返り、カタカタというキーボードの音だけが教室に響いていた。
ここは、今年2月に始まった、難民向けプログラミング学校「ReDI(レディ)スクール」。地元ベルリンの女性起業家、アンネ・リヒャルト氏らが立ち上げた、難民支援プログラムだ。
昨年、中東などから110万人超の難民が流れ込んだドイツ。3月の州議会選挙では難民排斥を訴える政党が躍進するなど、難民問題を巡って世論と政治は今も揺れている。地元の報道でも、「反対」の動きが取り上げられることが多い。しかし、産業界や草の根レベルでは、難民を受け入れようという試みがじわりと広がっている。ReDIスクールも、そうした活動の1つだ。

「難民」と聞くと、貧しい弱者の姿を想像しがちだが、実際には知識水準が高く、英語を流暢に話す人も少なくない。受講生の1人、アマドゥラ・セディクィ氏(22歳)もその1人。昨年10月、内戦が激化するアフガニスタンの戦禍を逃れてきた。
子供の頃からパソコンに興味を持っていたというセディクィ氏は、アフガンでは、コンピュータのエンジニアとして働いていた。企業向けのシステム構築などの仕事を受託し、多くの外国企業ともビジネスをしていた。
病気の両親を残し、首都カブールを後にしたのは昨年8月。内戦が悪化し、日々の生活で身の危険を感じるようになっていた。最低限の身の回りの荷物とスマートフォンだけを持ち、まずイランへと向かった。自分の経歴やスキルならば、何か仕事にありつけるかもしれないという淡い期待は、現地に着くと吹き飛んだ。待っていたのは難民に対する厳しい視線。「彼らから受けた扱いはひどかった」と言うセディクィ氏は、逃げるようにトルコに渡った。さらに北の欧州を目指した。
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