実は「80年代」っぽい?20代

 「それは、引っかかっちゃいますよね~」
 話を聞いたEさんは、首を捻りながら苦笑いをする。EさんはかつてMさんと同じ営業にいたこともあり、いまは人事部で採用を担当している。かつての取引先だから、雰囲気の見当はつくのだろう。

 「でも、わかりますよ。だって、僕もバブルは知らないも同然ですからね」
 あのスキー映画が流行った頃、Mさんは入社2年目だがEさんはまだ高校生だった。そして、彼が大学に入った頃から経済の先行きは怪しくなり、入社した頃にバブルは崩壊していた。
 「若い人たちは、中年を見ると十把一絡げに“バブル世代”とか言うじゃないですか。でも、僕とMさんは全然違うんですよね」

 その話は、今までにも何度か聞いた。生まれた年では7年ほどの違いだが、育った時代の空気はたしかに違う。
  そして、若い社員から見れば結局はどちらも「オジサン」である。歳よりも若く見られるEさんとしては、どこか複雑な気持ちなのだろう。
 「就職で苦労して、いまも子育てしながら頑張ってる30代の社員は、たしかに“バブル的なもの”に距離を置きたいんでしょうね。僕なんかも気持ちはわかりますけどね」

 そういうEさんは、また別の驚きを体験したらしい。それは、入社3年目の部下についての話だ。採用担当の彼の行動が、「想像以上に軽い」というのだ。
 新人で人事部に配属されてから、その彼は新卒採用を担当してきた。頭の回転は速く、弁も立つ。売り手市場で複数内定を取る学生が多い中で、「引き留め役」としての貢献度は群を抜いていた。「おかげでずいぶん助けられたんですけど」とEさんは言う。

 でも、何が引っかかるのか。それは、ある時に発覚した「事件」が原因だった。その部下は、自社の内定を辞退した、つまり「ウチの会社を蹴った」学生たちともずっと仲良く付き合っていたのだ。
 SNS上に「元内定者の会」みたいなグループをつくり、人事の彼も入っていたという。それは、Eさんの感覚では「ありえない」ことだった。

 「別に規則があるわけでもないんですけど」とEさんはぼやく。
 「最近入社した来た連中は自分たちが就活で苦労してないし、転職も引く手あまたでしょう。だから情報交換のつもりで、付き合っている。なんか軽いんですよね」
 Eさんの感覚では「どこか80年代っぽい」らしい。それは、親がそういう世代だからもしれない、いやたまたまその部下の感覚が特殊なんじゃないか。
 2人の間ではそんな話が続いた。

カウントダウンの50代に、何が残せるのだろう?

 話があちこちに飛びながら、MさんもEさんもいつものように楽しい時間を過ごした。しかし、話せば話すほど同じテーマになる。
 時代は一回転した。そして、「自分たちの総決算」をしなくてはならない、ということだ。

 バブルを疎んじる世代がいて、どこか浮かれている若手もいる。そんな中で、自分たちが80年代を懐かしがっているだけでいいんだろうか。
 「俺なんか、何ができるんだろう?」
 ふと、Mさんには口にした。
 「そりゃ、だって……」
 意表を突かれたEさんが言葉を継ごうとしたが、ふと口をつぐんでしまった。たしかに、Mさんの会社員生活で残された時間はそんなに多くはない。

 一方で、Mさんは取引先の女性社員に言われた言葉が気になっている。
 彼女たちが、本当に力を発揮できるような職場をつくることが、自分たちの世代の「最後の仕事」かもしれない。
 バブル世代は今でも怪しげにみられるけれど、「仕事の楽しみ方」を知っているところもある。あのスキー映画だって、そんな会社員の意地が描かれていたような記憶がある。

 「働き方改革」という言葉ばかりが踊るけど、仕事との上手な付き合い方を伝えていけば、自然に職場は変わるんじゃないか。失われた時代を嘆く前に、もう一度自分たちの知っている80年代と向き合って、「総決算」をする時が近づいて来るかもしれない。
 「もう『何ができるか』じゃなくて、『何を残せるか』を考える年なんだろうなぁ」
 そんなことを思いながら、Mさんは帰路に就いた。
 空気は冷たい。来年は、もうそこまで来ているようだ

■今週の棚卸し

 25年から30年は、ちょうど人間という動物にとって「世代の一回り」となる。若者が親世代に反発することもあれば、親の体験した文化が次の世代に受け継がれるケースもあるが、いま起きていることはどちらかというと後者の流れが目立つのかもしれない。
 一方で。社会人になって30年となれば「総決算」が近づいている。自らのカウントダウンから目を背けずに、「これからの時間で、次の世代に残せること」を考えることも大切になるはずだ。

■ちょっとしたお薦め

 タイムトラベルを扱った作品には。数々の名作がある。現実離れした設定の面白さもさることながら、生きることの本質を問いかけてくる作品も多い。
 「時」という抗えない魔物は、時にはどうしようもない切なさを感じさせてくれる。
 北村薫の『スキップ』は、昭和42年に17歳だった女性が、25年後の世界にタイムスリップする。90年代前半が舞台であり、いま読めばさらに時代が一回りしたことを感じるだろう。
 来し方行く末を考えたくなる年末年始の休みに、ぜひお薦めしたい一冊だ。

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