歳を重ねるごとに発見がある「啄木歌集」

「詩歌の本って、持ってる?」と言いながら、Zさんは石川啄木(久保田正文編)の「啄木歌集」(岩波文庫)をテーブルに置いた。

 Xさんは、詩集も歌集も持っていない。啄木にしても、有名な句は、学校で習ったけれどわざわざ歌集を手に取ったことはない。なんか、読んでもわからないだろうという気持ちになっていたのだ。

 そんな気持ちを見透かしたようにZさんは言う。

「詩や短歌こそ、誰もが自由に読めるものだし、どこから読んでもいい。忙しい時にパラパラとめくってみると、ドキリとしたりジンと来るものに巡り合えるんだ。しかも、歳を重ねるごとに発見がある。こんなに価値のある本はないと思うよ」

「啄木もそうですけど、何か重苦しいイメージが先にあるんですよね」

「それは、学校の教え方にも問題があったのかもしれないな。一篇の詩や、数首の歌だけじゃ、その作者のことはわからないよ。そういえば、正月なんだから『百人一首』だって、カルタで終わらせるんじゃなくて、ちゃんと読んでみるといいんだよ」

 たしかに、言われてみればXさんも詩人や歌人の名は一通り知っているものの、1冊の本を通しで読んだ経験はなかった。

「啄木の中でも、故郷を歌った作品がいいんだよね。帰省の季節になると、また格別だと思うよ。僕なんか東京出身なのに、なぜか響いて来る。そのあたりが、いつまでも読み継がれている理由なんだろうね」

そう言って、Xさんが「最も好きな一首」として教えてくれたのが、この歌だ。

ふるさとの山に向かひて
言ふことなし 
ふるさとの山はありがたきかな

 あれから数年が経ち、Xさんもあの時のZさんに近い年齢になった。そして、50代の生活において、あの頃から読むようになった小説や詩歌が、心の糧になったと今でも思っている。

 Zさんはあの後、引退した。だが、SNSを通じて本の紹介を続けており、それを楽しみにしているファンも多い。この年末に向けて、一体どんな本を紹介してくれるのだろうか?