ビジネス書だけでは得られない「解」

 Xさんのその年の12月は、例年に比べて少し落ち着いていた。初夏の辞令で課長職を離れて、次長に昇進した。上からは「大所高所の視点で」と言われる中二階のようなポジションで、現場から離れた分、時間的には余裕ができた。

 ただ、組織改革や新規プロジェクトなどを統括するため、「いままで使わなかったアタマ」を使うことにもなった。

 元々、本は好きだったXさんだが、気が付くといわゆる手に取る書籍はいわゆる「ビジネス書」が増えていた。ただ、今の歳になると、そうした書籍の中から得られる現実生活への「解」は限られているようにも感じるようになった。

 50歳ともなれば、段々と自分のこれからが見えてくる。さらに「上」へ行ける可能性はあるものの、希望通りの道が用意されないケースも多分にあり得る。これまでのような一本調子の生き方では、場合によっては、自分自身も行き詰まるのではないか――。漠然と、そんな不安を抱いたりもする年齢だ。

 時間の取れる、年末にじっくりと本を読んでみたい。それも、ビジネス書ではなく「文学」を。仕事だけではなく、自分の生き方を見つめ直すために。Xさんはそう思った。

 そんな時に思い浮かんだのが、Zさんだ。もともとは営業の第一線で活躍し、海外赴任の経験もある。その後広報室長を務めたが、60歳を前にして役職は外れた。

 それでもZさんは貴重な人材と言われている。その幅広い読書量と、そこから生み出される「知恵」が、依然として大きな魅力の一つであるからだ。広報の仕事で、そうした力は十分に発揮された。気さくで話好きだから、いまでも社外の記者などにファンが多い。

 Xさんは仕事でなんどか世話になったこともあり、本選びのヒントがもらえないかと思いZさんに声をかけたところ、快く時間を作ってもらえた。