ついつい思い出す不思議な先輩

 師走になって、街は慌ただしい。
 そして、この季節になるとFさんは先輩社員のNさんを思い出す。

 Fさんは、大手メーカーの部長職だ。いまのポジションについて3年になり、たくさんの部下を率いる立場にいる。
 サラリーマンとしては、十分に羨ましがられるポジションだろう。しかし、そろそろゴールが見え始めてきた。
 1年が終わろうとして、今年を振り返る。すると、「来年はどうなるんだろうか」という気持ちになっていく。50代ともなると、来年どころかその先の行く末が気になってくる。

 Nさんの定年退職の送別会も12月だった。そんなこともあってか「またNさんと会ってみたいなぁ」という思いが頭の隅をよぎった。
 だが、NさんはFさんにとって「常に先を歩き続けた先輩」というわけではない。また、決して「できる先輩」というわけでもない。
 Fさんが部長として着任した時に、Nさんは管理課長という立場だった。定年まで、あと1年あまり。いわば「あがり」のポストであり、Fさんにとっては、年上の部下だった。

 Nさんは穏やかな人柄で、でFさんをきちんと支えてくれた。ただ、あまり自分のことを語る人ではなかった。
 それでも、Nさんはある意味で「有名人」だった。実は、その社歴を辿ると「貧乏くじ」の連続だったのだ。あまり自分から話すわけではないが、その噂はFさんの耳にも入っていた。
 そんなNさんに、Fさんが惹かれる理由はどこにあるのだろうか?
 まずはNさんの経歴を振り返ってみよう。

「後始末」に徹した会社員人生

 Nさんが入社したのは、オイルショックが一段落した後になる。自動車メーカーにも納品するB to Bのメーカーなので、影響は大きかった。ようやく経済の状態はひと息ついたものの、高度成長時代の浮いた気分はなくなりつつあった。
 Nさんは営業部門に配属された。ところが、ここで最初の不運が起きる。配属された部の大手取引先の経営が危うくなったのだ。当然のことながら、自社への影響も大きい。
 部は実質的に「解散」となり、若いNさんは「引き取られる」ように異動した。その後も特定の部に長くいることはなかったが、入社10年が経った頃に広報室に異動となった。