トドメになったのは「火遊び疑惑」

 NPO活動に参加したこと自体について、Kさんの家族は好意的に捉えていた。子どもも成長して週末はそれぞれ多忙だ。夫婦で共通の趣味もないし、家でゴロゴロされるよりは、楽しげに出かけていくことを妻も喜んだ。
 ところが、あまりにも楽しそうだったことで、あらぬ疑いをかけられてしまった。

 きっかけは、スマートフォンで現地の写真を見せたことだった。地元のメンバーには若い人もいて、女性もいる。Kさんはみんなに囲まれてニコニコ顔だ。
 「あら、楽しそうね」と妻は言っていたが、そのうち食事の時もスマートフォンのやり取りにかかりきりになり、夜更かしもするようになった。
 そんな中で、段々と「あらぬ疑惑」が高まっていったのだろう。

 ある週末に行った時は、懇親会が夜遅くになった。帰ってきたのは、日付が変わった深夜である。
 その翌日に、Kさんは妻からさんざんなじられた。
 「NPOと言っても、結局は夜中まで宴会しに行ってるんでしょ。そりゃ家にいるよりはよっぽど楽しいでしょうね」、と皮肉を言われたが、遠因は「楽しすぎる写真」にあったらしい。

 ちょうど、その頃は先のミーティングの件でKさんにとっても居場所がなくなりつつある時だった。
 (これが潮時ってものなんだろうか……)
 そう考えたKさんは、NPOの活動を中断することにした。「休む」とは言ったが、実質的には辞めたようなものである。

 ちょうど、職場では新しい仕事が舞い込んできたが、折からの人手不足で現場は大わらわになっていた。「わるいけど、面倒見てやってくれ」と上司に言われたのを渡りに船とばかりに、Kさんは久々の現場に取り組むことにした。

 しかし、いつかこの会社には自分の居場所はなくなる。その時に向けて、やはり準備は必要だろう。
 NPOの体験はきっといい薬だったけど、この経験は、また将来役立つはずだ。
 楽天家でちょっとお調子者のKさんは、そう自分に言い聞かせながら今日も忙しそうに走り回っている。

■今週の棚卸し

 キャリアのゴールが見えてきたミドル世代にとって、問題になるのは「これからの居場所」だ。その居場所とは、会社の中にあるとは限らないし、むしろ期待しない方がいいだろう。

 一方で、長いこと会社中心の生活を送ってきた者にとって、それ以外の所に改めて「帰属」することのハードルは思いの外に高い。

 NPO活動への参加も、馴染む人もいれば、うまくいかない人もいる。自分を活かせて、周囲からも喜ばれるような居場所探しをするなら、早いうちから始めるべきだろう。

■ちょっとしたお薦め

 歳を重ねれば、仕事のことよりも「生きる」こと自体への自問が増えていくだろう。さまざまな人がその問いに答えようとしているが、宗教家から貴重な示唆を得ることも多い。

 僧侶の南直哉氏は会社員生活を経て出家得度をした経歴の持ち主で、著作も多い。中でも『なぜこんなに生きにくいのか』は、日常で誰もが感じる「生きること」への疑問を平易に解き明かしてくれる。

 特に「生きづらさ」を感じていない人にも、ぜひ一読をお薦めしたい一冊だ。