ボンヤリとした心の空白を埋めたくて

 「窓際」といわれるほど冷遇されてはないけれども、とはいえ「第一線」でバリバリと働いているわけではない――間もなく50歳を迎えるKさんは、日々悶々としていた。

広告会社の営業局の次長であり、十分な実績がある。そして、もう少し頑張れば「ひとつ上」のポジションも狙える位置にいる。しかし、Kさんはどこか満ち足りていない毎日を送っていた。
 部下たちは、実によく動いてくれる。キャンペーンの前ともなれば、労を惜しまずに働くから、Kさんはプレゼンテーションでも挨拶くらいしかすることがない。

 昔であれば、得意先との会食が大切な「お仕事」だったが、それもすっかり減ってしまった。
(キャリアの踊り場か……)
 以前何かの研修で、講師がそんなことを言っていたなあ、と思いだす。たしか、そういう時こそ「自分を磨け」とかいう話だったが、そうそう簡単なものではない。

 そんな時に、大学の同期が集まる機会があった。みんな、「それなり」に元気ではあるけれど、どこかKさんと似たような感じなのだろう。いまの仕事について、イキイキと話すことはあまりない。
 しかし、ちょっと違う男が一人いた。大手メーカーに勤めるCさんだ。
 彼はボランティアがきっかけで、とあるNPO活動に力を入れていたのだ。

「NPO」にのめりこんで行ったけど

 きっかけは、ある大災害の時に自社工場が被災したことだった。復旧のために社内では、週末に支援に来られる社員を募った。
 社員は一丸となった。多くの人が被災した工場の後片付けをして、余力がある人は地域のためにも尽力した。Cさんは地元の復興活動を手伝い、やがて設立されたNPOの幹事をしているのだ。

 経理畑が長かったこともあり、専門知識をもとにした助言が重宝されたらしい。Cさんは、とてもイキイキしていた。
 ノリがいいいけど、やや早合点なところもあるKさんは、その日のうちに心に決めた。

「そうだ、オレもこれからはNPOだ」

 ネットで調べればいろいろな団体がメンバーを求めている。ただし、どこに行けばいいのかは全く見当もつかない。思い立ってCさんに連絡すると、快く相談に乗ってくれた。

 そうして紹介された伝手をたどって、Kさんはとある町の地域おこしの活動をしているNPOでボランティアを始めた。東京からは高速を走って1時間少々だ。農地も多くのどかなエリアであるが、観光資源は殆どない。
 そこで、子どもに農業体験などをしてもらう活動を軸に、活性化を狙っているのだ。都会の子どもが週末に来るには、ちょうどいい距離感なのである。

 そもそも社交性のあるKさんだから、どんどん地元に溶け込んだ。広告会社にいたから、PRなどについてはお手の物だし、ネットでも発信し反響も増えた。Kさんは、程なくしてNPOの運営にもかかわるようになった。
 ただし、資金はまだまだ限られている。そこで、友人に寄付をお願いした。SNSなどを通じて、できる限り発信した。
 「子どもと自然のふれあい活動」というテーマだから、説得力はあると思ったのだ。