「もっと働きたい」と去っていく若手

 結局、このままでは精神的不調が強まるのではないかという医師の判断もあった、Jさんは別の職種への異動となった。人事部からLさんに対して「お咎め」のようなものはなく、「いろいろと大変でしたね」とねぎらうように言われたが、Lさんの中にはモヤモヤが残った。

 そんな折、同期のRさんと会う機会があった。同じ営業職だが、最近はちょっと疎遠になっていた。ただ、向こうにも話したいことがあったのか、「メシでも行くか」ということになり、2人で店に向かった。

 話題は当然のように仕事のことになる。Lさんが、今回の件を話すと、今度はRさんが口を開いた。

「オレの方にも最近、部下に関して戸惑ったことがあって……」

 どうやら2年目の男性社員が、「辞めたい」と言い出したらしい。名前を聞いて、Lさんは「エ?」と思った。彼は、若いけれど社内ではちょっとした有名人だった。学生時代からビジネスコンテストで優勝したり、NPO活動でメディアで取り上げられたりもしていた。

 SNS上では何千という「友人」がいて、ベンチャーを立ち上げるのではないかと言われていたが、就職してRさんの部下になった。新人の時から、順調に業績を上げて表彰されたりもしたが、2年目の後半で微妙な「異変」が起きた。休むことが目立ち、仕事への熱意もどこか醒めてきたように感じられた。

 Rさんが声を掛けようかと思っている矢先に「実は……」と向こうから切り出してきた。どうやら、大学同期の友人とともに起業するらしい。やはり、会社の枠には収まらないし、物足りなかったのか。そんなRさんの思いを見通しているかのように、彼はこんなことを言ったという。

 仕事は想像以上に楽しかった。いろいろな業種の人と話ができて、成果も上げられた。「けれども……」とちょっとためらった後にこう言った。

「もっとたくさん働きたいんです。別に休日もいらないし、遊びの時間もなくていい。すべてを忘れて没頭したいんです。Rさんの世代は、そんな風に働いてきたんですよね? でも、今はそれが許されない。そうなると、もう自分たちの会社で好きなようにやるのが一番かと思って」

 長身でクールな雰囲気ながら、熱を帯びて話す彼を見ながら「ああ、きっと女性にはもてるんだろうな」と全く関係ないことを考えていた、とRさんは苦笑した。

「なんか、ウチの会社にはもったいないかなという気になっちゃったよ」

 さして悔しいそぶり見せず、達観したように呟くRさんも、頷くLさんも、話しながら何か寂しい気分になっていた。