「あなたのようになりたかった」

 Jさんの訴えはシンプルだった。いまの仕事が、どうも自分に合ってないようだ。できれば別の職種に移りたいという。

 Lさんはちょっと面食らった。彼女は着実に成果を上げている。では、人間関係で辛いことがあったのだろうか? ところが、話を聞いていると意外なことがわかってきた。

 勤怠管理上の超過勤務はさほど多くないのだが、実は、結構な量の仕事を自宅でしていたのだ。聞いてみると、クライアントへの提案書に凝るようになり、それが評価されるうちに、どんどん時間がかかるようなっていったという。

 ただし、会社は勤務時間をキッチリと管理している。そこで、自宅のパソコンで作業をしていたのだが、結果的には休日も含めて相当の勤務時間になっていたようだ。

 Lさんは、戸惑った。「なぜ、そんな無理をしたのだ」と咎めるわけにもいかない。でも、なぜそんなに頑張ったのか、その気持ちを知りたかった。話をしていると、Jさんはこんなことを言った。

 「私は、Lさんのようになりたかったんです。Lさんや、そのくらいの歳の人って、『若い頃は毎月100時間は普通に残業してた』とか話されるじゃないですか」

 たしかに、そんな話をしたことはある。でも、Jさんはそういうスタイルを押し付けたわけではない。

 「だから」とJさんは続ける。「もっとたくさん働いて頑張らないと、Lさんのようにはなれないかと思って……でも、やっぱり私には無理だったんですね」

 自分が何気なく口にしていた“昔話”が、結果的に彼女を追い込んだ。最近は、自らもハードワークは控え、部下にも過剰な業務は押し付けていなかったにもかかわらず……。この時、Lさんはかける言葉を失ったという。

次ページ 「もっと働きたい」と去っていく若手