有能な部下との距離感がつかみにくなり……

 おおよそ、会社に不満のない会社員はいないだろう。不満にはいろいろな理由があるが、もっとも多く、かつ1人ひとりへのインパクトが大きいのは、人事をめぐる問題だと思う。
 そして、時には組織を大きく揺るがすこともある。

 Gさんは、本社の課長職について2年目を迎えた。おもにIT関連に強い商社で、日本全国はもちろん、世界にネットワークを広げている。
 だから何といっても「人」が生命線であり、管理職として何より気をつかうのが人事である。
 課長になってから1年以上が経ち、ようやく自分なりのチーム作りを意識する余裕が出てきた。次の定期異動では、自分の意向を部長に伝えることになる。

 (さて、どうしようか…)
 Gさんの課の業績は、十分に評価されていた。普通に考えれば、「骨格を変えない」ことが基本線だろう。
 しかし、Gさんには引っかかることがあった。間もなく30歳になる、部下のA君だ。

 彼は入社した時から、Gさんのもとでキャリアを積んできた。同期でも既に転勤などで異動した者は結構いる。しかし、A君を異動させるタイミングは難しい。
 なぜなら、彼は得意先からの評価も高く、後輩の面倒見もいい。つまり、「エース」なのである。

 Gさんは、A君を育ててきたという自負がある。ところが、最近になって段々と距離感をつかみにくくなってきた。A君は、現場の状況をしっかり把握している。だからGさんの知らないところで、どんどん仕事を進めて「事後報告」のようになることも出てきた。
 

 とはいえ、いまさら「報連相」を指示するのも大人気ない。
 そんな中で、今後のチーム作りを考えねばならないわけである。
 さて、A君をどうしようか。それがGさんの悩みのタネだった。

あえて「エース放出」の決断を下す

 やがて、部長との面談が近づいてきた。
 いまの部長は、異動については課長の意見を重視する。仮に、A君を「出してもいい」と言えば、その方向で調整される可能性が高い。そして、その場合には支社への転勤という選択肢もあった。

 Gさんの会社の売上は、近年になって東京本社の比重が高まっている。多くの会社が首都圏に集中していることの反映だろう。転勤をしないままマネージャーになる者も増えてきた。
 その一方で、人事は全社的なバランスを重視する。支社にもそれなりの能力の者を送り込みたいし、露骨に「飛ばされた」ような異動は好まない。
 有能な部下を囲い込みたがるマネージャーが多い中で、能力の高い者を「放出する」決断をすれば、部長にとってもありがたいだろう。

 それはまた、人事からも評価されるのではないか。
 ここは、敢えてA君を出して地方からの「戻り組」の受け入れをするべきかもしれない。
 Gさんのアタマの中には、そんな計算が働き始めていた。