パソコンモニターの壁紙はイチローの写真

Rさんは、本物のプロだ。別に本人がそう言っているわけではないが、周囲はそう認めている。
勤務しているのは、大手電機メーカーのグループ企業で、ウェブサイトの制作を請け負っている。単にデザインするだけではなく、企業戦略に応じたプランを考えて、安全性が高く、ビジネスに貢献するサイトを作成するには相当な知識と技術力が求められる。
波乱の続くエレクトロニクス業界で、親会社もいろいろと大変だ。しかし、インターネット草創期に設立されたこともあり、グループ内では「優等生」とされている。もちろん業界内での評価も高い。
Rさんは、その会社の中で一頭地を抜くエンジニアだ。
もう40代半ばになる。そして、彼が「すごい」と尊敬しているのが野球選手のイチローだ。Rさんは、イチローより少し年上だが「同世代」だと思っている。
Rさんが会社に入り、間もなくインターネットのビジネスが本格化した。ちょうどその頃にイチローは日本球界のスターになった。
何よりも、自分の技を磨くことに徹底的にこだわる。その姿は、Rさんが理想とする生き方そのものだった。
「もっと、取っ付きにくい人だと思ってました」
会社の懇親会などでは、異動してきた人から必ずそう言われる。もちろん、お得意先への説明などは上手で、コミュニケーション能力も高いのだが、余計なことはあまり言わない。
デスクで黙々と仕事をしていると、ちょっと声を掛けにくいのだという。そして、パソコンのモニターの壁紙はイチローの写真になっている。
「最近、イチロー凄いですよね」
慣れない後輩は、とりあえずそうやって話のきっかけを作る。そうすると、Rさんは人が変わったようにニコニコするのだ。
ところが、このRさんをめぐって経営陣はアタマを痛めていた。
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