幸いにして、当時の上司はKさんの思いをしっかりと受け止めてくれた。そして、人事部次長というポジションを用意してくれた。職階上は降格になるが、Kさんの実績と今後への期待をこめて、肩書にも配慮したのだ。

 いまのKさんの仕事はよろず相談屋であり、人事と現場をつなぐ大切な役割を担っている。基幹人事の原案を頭の隅に入れながら、あちらこちらからヒヤリングをする。現場の声を整理して、人事部長や担当役員に空気感を伝える。風通しがよくなったという評判があちらこちらから寄せられる。

 そうした仕事以外にも、Kさんが頼られることはたくさんある。いわゆる「心の不調」が理由で、体調を崩したような人にとってKさんは良き相談相手だ。仕事上だけではなく、私生活の問題が心の負担になる社員も多いが、自らも悩んだKさんだから話をする方に安心感があるのだろう。

 家庭の事情があるので、夜の酒席に出ることは滅多にないが、「飲まなくても本音を聞き出せるようになった」とKさんは言う。家族の介護をきっかけにして、「本当に役立っている」という実感があるというKさんは、「究極の窓際族だよ」と言うが、充実ぶりが伝わってくる。

オープンに失敗を語り信頼を積み重ねる

 このようにして50代になってから、組織の脇役として存在感を発揮している人はいるが、なかなかそうした役割を見つけられる人は少ない。役職を外れた途端に、居場所を失ったような感覚になる人の方が多いようだ。

 その一方で自分のポジションを持っている人には、共通点もある。
1つは、Eさんのように1つの分野に精通したプロフェッショナルであることだ。こうした人はエンジニアなどの技術職には多いが、いわゆる「文系」の総合職ではまだまだ少ない。それぞれの業界や会社で、まだまだ未開な分野の勉強をしていくことなどが大切になっていくだろう。年齢を重ねても「食わず嫌い」にならないことが求められる。

 また、地位や役職と関係なく、自分自身をオープンに話せる人はどんな立場でも頼りにされていく。

 Kさんは、家族の介護をきっかけにして、あらためて「人としてどう生きるか」を考えたという。そして、立場上建前しか言えない部長や役員に代わって、本音で話すようになっていった。

 ホークスの達川コーチは、地元のスポーツ紙に数回にわたってエッセイを寄稿している。その内容は、自らの経験談をベースにしているのだが、実に失敗談が多い。

 キャリアを重ねるとついつい自慢話が多くなる人が多い。だからこそ、達川氏の言葉には親しみも感じるし、説得力も強い。その一方で、「どうすれば勝てるか」については、人一倍考えてきたのだろう。行間からは、そうした自負もにじみ出る。おそらく、現場でもそういう感じなのだろうなと想像してしまう。

 プライドは心に秘めながらも、周囲にはオープンに接していく。ミドルのキャリアを考える上で、大切なことではないだろうか。

今週の棚卸し

 会社組織の中では、誰もが最後まで第一線でいられるわけではない。だからこそ、一定の年齢になったら「次のステージ」を自ら考えなくてはならない。

 それは自明のことなのに、いざ自分の身の処し方となると、ついつい後手に回ってしまう。

 本当に大切なことは、「地位」ではなく「役割」だ。そうしたシンプルな原則をもう一度見直して、自分の持ち味を活かせる場を探していく。達川氏の生き方は、多くの人に示唆を与えてくれるだろう。

ちょっとしたお薦め

 野球を題材にしたノンフィクションには傑作がたくさんある。また組織で働く人々にも共感できる登場人物やストーリーが多いけれど、今回紹介するのは少々毛色の変わった一冊だ。

 長谷川晶一氏の『最弱球団 高橋ユニオンズ青春記』(彩図社)は、その名の通り、「弱いチーム」の話だ。しかし、行間から溢れる熱気にはついつい引き込まれていく。

 3年目になって、有力なルーキーが加入して「ダブルプレーが可能になった」というあたりで、その水準が推し量られるだろう。ちなみに、そのルーキーとは佐々木信也氏である。