パワハラとみなされるには、上司の具体的な言動などがカギになる。しかし、そうしたことを尋ねようとすると、どうにも歯切れが悪かったという。

 「今回の件は、まず『パワハラ』とは思ってません。ただ、どうして彼がそんなことを言いだしたのか?そのことは、こちらでもう一度聞きます」。そして、2人とも腑に落ちないままでその日は別れた。

正体はできる先輩への“嫉妬”だった

 翌日、Sさんが会社に行くとC君は休みをとっていた。そして、人事のJさんから「時間をもらえませんか」と連絡がある。

 Sさんは、再びJさんと向き合った。

 「いや、ご心配をかけました」

 そう切り出すJさんだが、ホッとしたようでいて、どこか割り切れないように見える。「いろいろなケース見てきたけど、こういうことは初めてです」と、再度C君から聞いたことを話し始めた。

 結論から言えば、パワーハラスメントに該当するようなことは何もなかった。では、なぜC君はそんなことを言ったのか?

 想像以上にレベルの高い仕事にキャッチアップするのがやっとで、段々と疲弊するうちに、周囲の社員、特にどんなことでもスイスイとこなしていく先輩社員に“嫉妬”したようだ。その悔しさから、勢い余ってSさんを「告発」してしまったのだという。

 「彼は、“嫉妬”と言ったのですか?」

 「いや、『なんかモヤモヤしたやっかみとか、ヤキモチとか』という言い方でしたね」

 まあ、それはたしかに“嫉妬”なのだろう。しかし、そんなことで、今回のような行動に出るのだろうか?そんなSさんの気持ちを見越したように、Jさんは言った。

 「まあ、敢えて言えば“嫉妬”なんでしょうね。でもいいやつですよ。『ごめんなさい』って涙ながらに謝られちゃいました」

 今日、C君が休んだ理由もわかった。そして、これから一緒にやっていくのは、ちょっと難しいのかもしれない。Sさんが口にしようと思った矢先に、Jさんが言った。

 「まあ、今後のことは私たちも考えますよ」

 含みを持たせた口調だったので、Sさんも「お願いします」としか言わなかった。苦くて酸っぱい何かが、胃の腑に残ったような気分だった。