大切なのは自分のストーリー

 私たちは物心ついた時から、他者の評価を受けることを当たり前のこととして育ってきた。それ自体はやる気を引き出したり、自分を知るうえで必要なシステムだろう。

 ただし、いつまでも他者の評価を拠り所にしていくことは難しい。「もっと上へ」と頑張る年頃は、“天井”がまだずっと先にあるだけに、外からの叱咤もエネルギーになる。しかし、段々と自分のキャリアの行く末も見えてきて、周囲からの評価が自信の礎にならなくなった時、一番大切なことは何だろう?

 一つの答えは、自分自身と向き合い、自らが納得できるストーリーを作ることだと思う。それは、「大人の力」と言ってもいいかもしれない。

 例えば、八方に気を配りながら、一つひとつの仕事を成し遂げる中で、若いメンバーには「金メダル」体験をさせていくこともミドルの大事な仕事だ。この仕事の意味合いは何か、どうやって進めることが会社の利益になるのか、メンバーの意欲を上げるには何に気をつければいいか――。

 そうやって黒子役に回り、自分の心の中に納得できる銅メダルを重ねていくというのも、一つの働き甲斐ではないだろうか。

 銅という金属は、変色して黒くなりやすく、また、熱伝導率が高いという特徴を持つ。しかし、研磨を欠かさなければ、金や銀とはまた異なる味わい深い輝きを放つし、周囲に熱を伝えるにはもってこいの素材だ。

 そう考えると、銅メダリストは非常に魅力的に感じられる……のだが、皆さんはいかがだろうか?

■今回の棚卸し

 ミドル世代にとって、毎日の仕事は困難の連続だ。賞賛を受ける機会が少なくなる一方で、プレッシャーは厳しい。また、若い時とは、求められるスキルも、モチベーションも変化する。

 そうした環境で、自分自身の働き甲斐を感じるためには、自分を客観視したうえで自らの役割を見定める作業を通じ、仕事の納得度を上げていくことが求められる。

 ただ、自分自身との“戦い”は、ある意味、他人と競うよりつらい。時に、努力を続けている自分自身をほめることも大切になってくるだろう。

■ちょっとしたお薦め

 今年の直木賞候補にもなった門田慶喜の「家康、江戸を建てる」は、江戸幕府の成り立ちを今までとは異なった角度から描いた作品だ。川の流れを変えて、石垣をつくり、貨幣を鋳造する。そこで描かれるのは、誰もが知ってる有名な「金メダリスト」の武将たちではない。しかし彼らは、自らの仕事を納得いくまで成し遂げ、その事業は時に世代を超えて完成される。

 新たな時代が拓かれる頃に活躍した「銅メダリスト」たちの働きに心が動かされる小説だ。