優秀だけれども「歯がゆい」上司

 「R課長がついに!」

 新聞の人事面にその名前を見つけたKさんは、10年前の出来事を思い返した・・・・・・。

 「でも、いいよねKさんのところは」

 いつも他部署の同僚にそういわれるたびに、彼女は「そうね」と相槌を打っていた。「いいよね」と言われる理由は、上司であるR課長のことなのだ。

 しかし、心の中では「完全同意」というわけではなかった。優秀でバランス感覚に優れたR課長だったが、Kさんにとってはどこか「歯がゆい」上司でもあったのだ。

 R課長をめぐる最も印象的な出来事は10年前のことになる。Kさんは当時30歳になろうとする元気いっぱいの若手であり、R課長は40代半ばで第一線のマネージャーだった。

 職場は、B to Bが中心の商社だった。質の高い産業機械の輸入が強みであり、業界でも一目置かれる名門だった。一般的な知名度はないものの、待遇もよく、大手商社からの転職組も結構多い。

 商社独特の活気があり、海外企業を相手にタフな交渉をこなせるタイプがリーダーになっていく。ちょっと強引な激情家や、腹に一物があって何を考えているかわからない策士。

 そんなマネージャーたちの中で、R課長はちょっと異色の存在だった。人当たりは柔らかく、若い部下の話もよく聞く。判断は的確だし、取引先に対しても言うべきことをキッチリと言ってくれる。

 しかし、Kさんにとってはどこか「歯がゆい」のだ。それは、Kさんだけではなく、課内の部下たちがみな感じてることだった。

 Rさんは、「必要以上のことをしない」タイプだった。大切な商談の前でも、部下に無理はさせない。やたらと資料を準備させて部下に負担をかける上司が多い中では稀有な存在だ。

 それでも課の業績は安定している。だからこそ他部署からは「いいよね」と言われるのだ。

いきなり「本気出した」プロジェクトで

 たしかに課の業績は悪くない。でも「もう一押し」があれば、もっとビジネスの機会を広げられたんじゃないか。

 若いKさんもそう感じることはたびたびあったのだ。