順風満帆だけど、心に穴が

 人の悩みには、傍から見てわかりやすいものもあれば、「わかりにくい」ものもある。順調に人生を送っているような人ほど、そうした見えにくい思いを抱えていたりする。

 Vさんはまさに、そんな1人だろう。新卒で入社以来勤めているメーカーでは、数少ない女性管理職だ。順当にいけば、さらに上にいくだろう。それは、本人も自覚している。

 総合職で入社した頃は、まだまだ典型的な男社会だった。消費財のメーカーで、主たるターゲットは女性だったが要職に登用される人は少ない。しかし、30歳を過ぎた頃に転機が訪れた。

 バブル崩壊後の後遺症が抜けず、経営自体が荒波にもまれた。外部から資本を注入し、併せて社長を外から迎え、大規模なリストラも行われた。いろいろと大変だったが、Vさんの世代は結果的には陽の当たる場所に出ることになったのだ。

 彼女は宣伝やマーケティングの仕事を担当していたが、チャンスが来た。会社としては、いわゆる「止血」を終えて攻めに出る頃だったのだ。反攻に向けた戦略商品を担当したが反響も大きく、仕事も評価された。

 その頃は転職してくる者も多く、外資系から来た同年代の女性と競ったこともある。ただ、Vさんは淡々としていた。むしろライバルの方が力み過ぎて、周囲がついて行けなかったりする。

 そんなこともあって、自然に昇格して40歳を過ぎた頃にはマネージャーになった。

 比較的早く結婚して、子どもも生まれた。苦しかった家庭と仕事の両立も、周囲に助けられ、もう一段落した。40代半ばを過ぎてとても順風満帆に見える。

 ところが、彼女には何とも言えない心の空白感があった。それは、自分の将来についてではない。部下の女性たちに対して、物足りなさを感じているのだ。

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