キレた課長は睡眠不足に苦しんでいた

 連休明けの人事部は、朝から全員がフル回転でパソコンに向かっていた。そんな時、J君の背後から上司が声をかけた。

「ちょっといい?」

 J君は営業畑が長かったが、人事に異動して3年になる。まだ30代の後半だが、採用から制度運用などひと通りの仕事を経験した。

 「何か変だな」と直感的にJ君は感じた。すると、上司はわざわざ会議室まで歩いていく。簡単な話なら、そのあたりのコーナーで済ませるはずだ。

 ドアを閉めると「実は……」と話が始まった。

 X課長の件である。概略は聞いたが、詳細なヒヤリングをしなくてはならない。その担当をしろ、ということだ。

 「そろそろ、こういう仕事もやってもらおうかと思ってね」と言う。不思議そうにしているJ君に対して話を続けた。

 「この手の話は、担当を決めてるわけじゃないんだよ。あまり若くちゃ無理だけど、人事のマネージャーが出ていくと、緊張されちゃうんだよね」

 「そういうわけで、今回は君が中心になってヒヤリングした上で、報告してくれ」。それが上司からの話だった。続けて、大体の「手順」を説明したうえで、「他には言うんじゃないぞ」と念押しして、上司は会議室を出ていった。

 J君は、状況調査を始めた。金曜の朝にあったことは、大体わかった。そして、X課長は何事もないように仕事をしているが、相当に口数が少ないという。

 まずは、本人に話を聞くしかない。気乗りのしない仕事ではあるが、X課長と会う段取りをつけることにした。

 X課長は、J君に対してはごくごく普通に話をした。例の朝のできごとについては、「申し訳なかった」と言う。ただし、「何を言ったかは覚えていない」と言い、そこで心を閉ざすような状態だ。

 遠回しに健康状態について尋ねてみると、たしかに「最近はどうも睡眠不足で」とは言う。しかし、その原因もハッキリしない。とりわけ勤務時間が長いとか、海外出張で時差に苦しんでるわけでもないのだ。

 モヤモヤしたまま、X課長との話は終わった。

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