思いつめて「転職」へ踏み出したいが

 C君は首都圏を統括する営業本部にいる。Fさんのいる本社近くに来られる日を調整して、せっかくだからと、少しゆっくりできる場所でランチをすることにした。
 ところが久しぶりに会ったC君は、影が薄いように見えた。大きな体が縮こまっているように感じる。
 そして、早々に口にしたことは予想外のことだった。
 「転職を考えています」
 Fさんは戸惑ったが、それには理由がある。最近はたしかに転職者も増えていたが、そこには一定の特徴があり、C君はその特徴には当てはまらないからだ。

 まず、入社して3年くらいで辞めるものはたしかに増えた。しかし、彼らはいかにも「尖った若者」であることが多い。会社としても「今までにない人材」を獲得したつもりだが、やはり水に合わないのだろう。行き先は、いわゆるベンチャー系の企業だ。

 さらに、体育会出身の社員で転職する者は少ない。あるとすれば、家業を継ぐために実家に戻るとか、ごくまれに取引先の流通企業に請われて移る者がいるくらいだ。
 体育会出身の社員は仕事や私生活においても「昭和的な価値観」を持っている者が多い。「腰が据わっている」ともいえるが、「機を見るに敏い」わけではない。

 では、C君はどうして転職を考えるようになったのか。一言でいえば、段々と「居場所」が無くなってきているように感じているようなのだ。
 入社した頃は、とにかく取引先を回る。昔ながらの「足で稼げ」という世界だ。そして、一定の年齢になれば、管理職として要所要所で手綱を引き締める。
 ところが、そういう営業の現場が変わってきている。
 「提案力」「企画力」が重視されるようになったのだ。

 かつてであれば、本社の作成した商談資料を携えて「よろしくお願いします。」と頭を下げていればどうにかなった。しかし、それだけでは競合に負けることもある。
 エリアの特性や、顧客の傾向などを踏まえてオリジナリティのある提案書を各社が競うようになった。いきおい、パソコンに向かう時間も長くなり、昔ながらのスタイルでは通用しなくなってきたのだ

 C君は、その競争に馴染めないという。そして、より若い営業マンは「器用に」資料を作り、「要領よく」商談をまとめてくるという。
 「それが評価されるのはわかりますけど」とC君は言う。「でも、このままだと、本当につらいんです」と唇をかみしめている。

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