輪の中心にいるのはGさんだった。どうやら出向した先の会社について、面白おかしく語っている。「まだまだ遅れているし、俺たちがどうにかしなきゃ」という口調だが、不思議と嫌味にはならない。「そうだよなあ」と相槌を打つ者もいる。

 そのうちに、Gさんは「将来」について話し始めた。

 今回は出向となったけど、思ったより自分にとってはよかった。事業に関わることができたし、もう金融の仕事よりもどこか若い企業の手伝いをしたいという。実際に、ベテランの金融マンがベンチャー企業に請われて、財務経理などの責任者になるケースも多いのだ。

 「そういうところで、もう一度チャレンジするのもいいよな」

 「もう会社を辞めたい」など親しい仲間の前でも、まず口に出す者はほとんどいない。そういう気風の会社だし、Gさんも少し前ならそうだっただろう。しかし、何かが吹っ切れたように元気なのだ。結局、TさんとGさんは、あまり話し込むことはなかった。

 そして、Tさんは、その日以来複雑な気分になっている。

 自分は本当に難しいことにチャレンジしたのだろうか。「隠れ勝ち組」と言われながらも、実は逃げていたのではないか。Gさんのように、ちょっと目立ちたがり屋だけどいまだにバイタリティを失っていない姿に圧倒されたのだ。

 実は、Tさんには「セカンド・キャリア」のプランがあったのだ。とある地方の大学で非常勤講師を務めているのだが、「いつかぜひ」と声を掛けられている。つまり、いずれは会社を辞めて大学教員になる選択肢が浮上しているのだ。

 そうすれば、定年も遅く、これからの人生も「大方安泰」だろう。しかし、本当にそれでいいのだろうか。何か、取り組むべきことがあるのではないか。とはいえ、今の研究所の「所長」は、「大きな方の会社」の指定席で、「上」を目指すにも限界がある。

 50歳を前にして、いったい何が自分にとって「ベストの道」なのか?激動の大企業で穏やかな生活を送ってきたTさんの心は揺れている。

■今回の棚卸し

 組織の中で生きていくための「知恵」は誰も教えてくれない。会社の方針に忠実に生きていても、その方針自体も変わることがある。まして合併などをおこなった組織では、それぞれが「処世術」を身につけるしかないのだろう。

 ちょっと斜に構えて、いち早く居場所を見つけたTさんのような人もいれば、正面からぶつかるGさんのような人もいる。しかし、どのような生き方が「正解」なのかは誰にもわからない。そして、ミドル世代になっても「自分のポジション」を見つけるための模索はまだまだ続くだろう。

■ちょっとしたお薦め

 会社員という働き方は近代になって生まれたものだが、「宮仕え」という働き方は相当昔からあったようだ。しかし、その職場の記録は意外と少ない。そんな中で江戸時代の貴重な記録に解説を加えた一冊が、 神坂次郎の『元禄御畳奉行の日記』(中公文庫)だ。

 時代を越えた組織人の振る舞いや心境がよくわかり、思わず笑い、また哀しくもなる痛快な内容だ。一方で現在の私たちに対する「戒め」となるようなエピソードもあり、一読をおすすめしたい。