やがて、Tさんは自分の名でレポートを書くことにもなり、時には専門紙やウェブサイトにコメントすることも増えた。それを目ざとく見つけた親が喜んでくれるし、何よりも職場のストレスは少ない。

 会社の中では傍流で出世には限界があるけれど、「いい選択をした」とTさんは思った。研究所でマネージャーとなると、かつての仲間からは「隠れ勝ち組」だよなぁ、などと言われる。実質的に「吸収」された側の者の中では、しっかりと生き残って来た方だったのだ。

 「なんか、アルマジロとかハリネズミとかそんな気分なのかな」

 親しい友人に、Tさんはそんなことも言っていた。

「吸収元」企業の同級生と再会

 やがて50歳近くなる頃に、行内にいる大学の同期で集まろうかという話になった。卒業から一定年数が経ち、そういう機運になる頃なのだろう。気楽な気持ちで、Tさんは参加することにした。

 同年代は皆、会社員としてのゴールがチラチラと見えてくる時期になっていた。勢いがあった者も意外なところで燻っていたり、目立たなかった者が役員候補と言われたりする。いずれにしても、出身母体を超えて「一度集まろうよ」という気分になったのだろう。合併した後のピリピリした感じは薄れてきていた。

 そこで、Tさんは懐かしい名前を見つけた。大学で同じクラスだったGさんだ。

 大学の友人は、サークルやゼミの仲間が中心で入学した頃のクラスの付き合いは殆どなかった。ただし、Gさんのことは印象に残っていた。1年の頃から、大手の金融機関に行きたいとハッキリ言っていて、具体的に名前も挙げて、やがて希望通りに業界トップクラスの銀行に入ったのだ。つまりTさんを「実質的に吸収した」金融機関である。

 学生時代から上昇志向を隠さないタイプで、最近までは本部でも結構頑張っていたようだ。しかし、最近になって取引先へ出向になったという。Tさんとは、まったく異なるタイプで、就職活動のスタイルも違えば、その後のキャリアも違う。「身の丈」に徹して、あえて本流から外れて今のポジションを得たTさん。「より上」を目指して、ずっと本流で頑張ってきたが、ついに外れてしまったGさん。その他にもいろいろな道を歩んできた者が、久しぶりに再会した。

戦い続けるバイタリティに気圧される

 会の当日、集まった者は決して多くなかったが、想像以上に盛り上がった。Tさんはメディアにも時おり登場するので、社内でもそれなりの「有名人」だ。周りには人が絶えず、「景気はこれからどうなるんだよ、先生」などと言われる。

 だからと言って、偉そうに振る舞うわけではないが、悪い気持ちはしない。Tさんにとっては居心地のいい時間だった。そのうちに、人の輪がいくつかできるが、やたらと盛り上がっているところがある。