「同調圧力」が目を曇らせていた

 さて、企業社会においてはIさんのように振る舞う人の方が、むしろ多数派だし、ある意味当たり前の行動かもしれない。

 「みんなそうするから」と言われて、断ることは難しい。これは「同調圧力」という言葉で説明されることも多い。

 自分が集団の中で異なる意見を持っていても、周りが同じ意見を持っているとそちらに流れてしまう。そうした目に見えない力である。「場の空気」と言ってもいいかもしれない。

 これは社会心理学における「同調行動」の実験などからも明らかにされている。

 Iさんは、この圧力に弱かった。Jさんは、比較的強い方だったかもしれない。しかし、自らの意志で動いたわけではない。たまたまゴルフコンペに「申し込み損なった」ことがきっかけで、その後冷静に振る舞うことができた。

 最近になって、企業の内部不正が明らかになる事件が相次いでいるが、そこには、この「同調圧力」が大きく関わっていることも多いようだ。不正であるとわかっていながら、誰も声をあげることができないままに、やがて後戻りにできないところに来てしまう。

 そこまで、大ごとにならないにせよ、会社の中には無数の同調圧力がある。そこで逆らうよりは、「皆がしていること」に乗った方が、損は少ない。それは妥当な考え方ではないか?

 ただ一方で、たとえ同調しなくても、自分が思うような大きなデメリットは生じないのではないか?との疑問も生まれた。 実は、無理やり同調することの方がダメージは大きいのではないか?

 Iさんは、あの騒動を思い出すたびに今でも自問するという。

 そして、その後K氏と話した時に、また意外な思いをした。その後役職を離れてグループ会社に行ったK氏は、「あの頃」を回想して短くこう言った。

 「実は、毎日不安だったんだよね。ほどほどにしとけ、と言おうとしても、皆の勢いがついちゃうと、もう自分が止めちゃいけないような気がして」

 もっとも同調圧力にさらされていたのは、ほかならぬK氏だったのだ。つまりこの手の「圧力」は上から下にかかってくるものとは限らない。組織全体にギュッとかかってくる、いわば気圧のようなものなのだ。

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