「ありがとう」を探して、職場が変わった。

 ちょうどWさんの職場では、定期的な個人面談の時期になっていた。いわゆる「目標共有」と言われるものだ。型どおりに流すこともできるのだが、今回は社員それぞれの要望を改めて聞いてみることにした。

 すぐに、不満をぶつけてくるような者はいなかったが、それなりの声を拾っていくことはできた。そして、中身を整理してからWさんは驚いた。

 いわゆる、仕事に直結するような話が殆どないのだ。職場の電子レンジが古いとか、エアコンの温度設定が合わないとか、トイレを洗浄機能つきにしてほしい…などなど。

 仕事自体に不満がないというよりも、関心自体が薄くなっているんじゃないか?だからといって、職場環境の改善だけでいいのだろうか?彼らが求めていることは何なんだろう?

 いろいろと考えているうちに、情報端末が相当古くなっていることに気づいた。そのために事務所にいる時間が長くなったり、休日なのに出て来なくてはならないこともある。

 刷新のためにはコストもかかるが、Wさんはヒヤリングして熱心に調べた。提案書を作って、子会社の経営会議に持っていくと賛同の声も多い。最終的には本社でも議題になったが、結果的には「次の課題」となってしまった。

 それでも、職場には変化が起きた。Wさんの懸命な動きが、周りに伝わったのだろう。みんなが自主的にコストダウンに取り組み、いくつかの備品を刷新することはできた。

 そのうちに部下から食事の誘いも受けるようになった。かつて本社で働いた頃の話に耳を傾けるものも出てくる。帰る間際はこう言われた。

 「いろいろお話を聞かせてもらってありがとうございました」

 「すごいですね」とは言われなかったが、Wさんはしっかりと感謝の気持ちを受け止めた。

 後に、Wさんは本社の総務部門に戻ることになる。この企業では、珍しいカムバックだった。幾つかの提案を通じて、改めて購買の仕事をすることになったのだ。

 賞賛から感謝へ。Zさんからもらった一言は、想像もつかないほどの転機につながったのである。

■今回の棚卸し

 自分自身の「欲求」を見直すことは、ミドルの転機にはとても大切になってくる。もし満たされていないとすれば、自分の欲求を満たすだけの能力が不足している可能性もある。

 「賞賛」を受け続けられる人はごくごく一部だ。Wさんのように、「どうすれば自分は満足できるか」を見直すことも大切になってくるだろう。

■ちょっとしたお薦め
 人は誰だって、「自分はこうしたい」といういろんな欲求を持っていて、だからこそさまざまな進歩がある。一方で「人のため」と頭ではわかっていても、なかなかどうしていいかわからないものだ。

 読んだ方も多いだろうが、ディケンズの「クリスマス・キャロル」は大人になって、たくさんの経験をしてから読むと、改めてその奥深さと温かみに気づく。ちょっと季節外れだけれど、再読をお薦めしたい。