「賞賛」は難しくても、「感謝」されることはある

 なぜ、この一言がWさんの転機になったのか?それは人間の根本的な欲求と深く結びついている。Wさんにとって最も乗っていた30代の頃は「すごいですね」と言われることが、モチベーションにつながっていた。こういう心理を「賞賛欲」という。仕事の達成への執念が強い人は、こうした欲求に支えられていることが多い。

 一方で、「ありがとう」と言われることに強い喜びを見出す人もいる。これは「感謝欲」という心理が関わっている。

 どの欲求がいいのか?というわけではない。ただし、「すごい!」と言われることと、「ありがとう」と言われることはどちらが多いだろうか?多くの人は後者だと思うのではないだろうか。

 「すごい」と言われるためには、ある分野において卓越した能力が必要だ。一方で、「ありがとう」という言葉は日常においても飛び交っている。つまり、人が一生のうちに「すごい」と言われて、誉められる期間は意外と短い。学生時代にスポーツで活躍したり、仕事の第一線にいる時くらいなのだ。

 だから賞賛欲が強く、かつそれが満たされていた人ほどミドルになってから心の持ちように苦労することがある。第一線から外れていく中で、心が燻ってうまく適応できない。段々と敬遠されていくので、やがて孤独になっていく。

 実は、Wさんにもその可能性はあった。しかし、Zさんの一言で心持ちを変えることができたのだ。

 「すごい」と言われなくてもいい。小さなことでも「ありがとう」って言われればいいじゃないか。そして、お互いに感謝を交換するという行為は職場を離れてもずっと続くはずなのだから。

 Wさんはそこに気づいたのである。