忘れていた、金融機関への志望動機

 Qさんは大手の金融機関に勤めている。入社したのは、90年代の半ばだった。バブル経済は崩壊し、その一方で金融機関をめぐるスキャンダルや経営不安も目立ち始めた時代である。

 つつがなく仕事をこなしてきたQさんだったが、40歳を過ぎてから、気持ちに変化が生じた。きっかけは、2011年の東日本大震災である。

 Qさんは北関東出身だが、親族が阪神・淡路大震災を経験したこともあり、その頃、卒業間際のQさんはボランティアにも行った。そのQさんにとって、東日本大震災のインパクトは大きかった。

 Qさんの会社ではボランティアのための休暇制度もあり、自分の有休も利用して被災地に何度か通った。東北地方には地縁のなかったQさんだが、自分が想像した以上にボランティアにのめり込んだ。

 ことに阪神・淡路の経験を生かしたうえでのアドバイスは、地元の人にも喜ばれ、またボランティア仲間からも一目置かれた。また、その際の経験は、Qさんにとって、自分自身を見直す機会にもなった。

 そして、Qさんも「最初の気持ち」を思い起こすことになった。

 なぜ、金融機関を選んだのか。当時は、「世の中のため」という気持ちが、Qさんには強かった。

 就職活動の頃、金融不安も強く、就職先として金融機関の人気はあまり高くなかった。しかし、金融機関はそもそも、社会性の高い業務を担う。おカネを通じて、事業の成長や個人の生活、社会の整備に貢献する大切な仕事のはずだ。Qさんはそこに魅かれた。

 そんなことを面接で熱っぽく語り、複数の内定を得た。

 しかし、つつがなくキャリアを重ねていく中で、いつしか就職当時の気持ちも薄れていった。どの仕事ももちろん、「世の中のため」ではあるけれど、その一方で、目標である収益を達成することがアタマの大半を占めていく。

 震災後のボランティアは、もう一度当時の気持ちを蘇らせた。一方で、現在の自分の仕事に対しての疑問も高まる。そうした葛藤の中で、人事異動に関する自己申告の機会が来た。