春という季節は、気持ちをタイムスリップさせるようなところがある。3月の卒業シーズンでは学生時代を思い起こし、4月に配属された新入社員を見れば自分の駆け出しの頃の記憶が蘇る。

 それを、ただ懐かしむのか、それとも気持ちを新たにするのか。社会に出て時間が経てば、入社した時の初志はついつい忘れがちになる。しかし、どんな人も自分なりの未来像を持って、あの春を迎えたはずだ。

 だが、現実のキャリアは、思うようには描けない。入社後に希望した通りの仕事につき、成果も出し、その後も自分のデザイン通りに順調にステップアップいく人もいないわけではない。ただ、紆余曲折を含め、最終的に初志貫徹に近い道程を歩んだ人を含めたとしても、そうした恵まれた人は全体から見ればごく少数だろう。

 大半の人は、自分の希望通りの職種・職場に配属されなかったり、されたとしても自分の予想とは違って苦戦を強いられたり、順調な歩みの途中で思いがけない出来事に足元をすくわれたり、思い切った決断ができないまま昨日の延長線上で今日を過ごしていたり…。

 「初志」との間で上手に、もしくは致し方なく折り合いをつけながら、人生を歩んでいるのではないだろうか。

 だが、そうした「ごく普通」の人であっても、新人を迎える春は、やはり“むずむず”する季節だ。それは、40代・50代のミドルであっても例外ではない。

 「本当にやりたかったこと」への思いを心のどこかに秘めつつも、今の仕事に取り組んでいるからだろう。啓蟄(けいちつ)ではないが、心の中に置きっぱなしにしていた忘れ物が、春という「変化の季節」に誘われて這い出てくるのだ。