意外な異動で「そこそこいい感じ」に

 とあるメーカーに勤めるXさんは、営業のチームリーダーだった。いわゆる課長職だ。43歳の今まで、営業畑を中心に歩んできた。昇進は、やや早いくらいだっただろうか。厳しいと言われる職場環境だが、そんなに強いストレスにさらされたこともなく、順調に来た方だと思っている。

 ところが、想像していなかった異動があった。営業からシステム開発の部署へ行けという。ポジション的には横滑りだが、いい話には思えなかった。「なんでだろう?」と思いつつ、入社時にお世話になった先輩を訪ねた。その人は既に関連会社に出向していてざっくばらんに話をしてくれる。

「まあ、そこには理由はないんだよな」
「そうですか?」
「40歳過ぎたら、“圧倒的にできる”人以外は段々と外れていって、最終的に役員以上になるのはわずか。それ以外の異動の順番や行き先ってあまり深い意味はないんだよ」

 あまり納得のいく答えではないが、自分の先輩を見ていてもそういうケースは多い。Xさんは割り切りの早い人だった。

 現場の一線を外れたので自由な時間はとれる。終業後のつき合いの飲みも減った。システム部門の知識はなかったが、ゼロから勉強していくうちに自分でも興味を持つようになった。学生時代は野球をやっていて、いまさらどこかのチームに入るのは難しいと思いつつも、まずはジョギングから始めて、体を動かし始めた。

 それから2年。自分にとっても、傍から見ても、「そこそこいい感じ」に毎日を過ごしている。

 ところが、こういう人ばっかりではない。

「目をかけていたのに」と嘆く上司

 Xさんと同期のYさんが異動したのも同じ時期だった。営業の前線から営業企画へ。一歩下がって全体を見るという役回りである。Xさんの場合に比べれば、おなじ営業セクションの中での異動だったが、Yさんは素直に受け入れられなかった。

 収益管理をして人員配置を考えたりと、全体を見る仕事なのについつい現場のやり方が気になる。とにかく攻めには強かったつもりだが、俯瞰して考えたりロジックを積んでいくのが苦手だ。そういう仕事は若手に任せていたのだ。

 上司はYさんに研修やセミナー行くことを薦めた。勉強すればまだまだできるはずだ、と考えたのだがYさんは何だかんだと理由をつけて行かない。

 自分より若い連中と一緒の研修に行くことなど耐えられなかったのだ。1年もしないうちに、Yさんの仕事はどんどんなくなっていく。ただし管理職だから何か言わなきゃいけない。ところがそれも的外れになる。

 結局はさらに現場から遠いところに異動になったのだが、あとで上司は嘆いていた。実は、Yさんの評価自体はXさんよりも高かった。だからこそ、企画部門で経験を積ませて、「さらに上」への候補にするつもりだったのである。

 XさんとYさんは、2人とも「ミドルの転機」というべき岐路に立っていた。では、2人のその後のキャリアを分けてしまった原因は、どこにあったのか。

 それは、能力というよりもそれぞれの中にある「何か」だ。

プライドを「畳む」と「捨てる」の違い

 その「何か」とは、そう、「プライド」だ。

 プライドは大切だ。それを否定するつもりはない。ただし、プライドとつき合うのは結構難しい。ミドルというのは、その難しさがピークに達するときともいえる。

 「プライドを持て」と励ますこともあれば、「プライドを捨てろ」と叱咤される時もある。ただし、ミドルの場合は既にそれなりのプライドを持っている。では、「捨てる」ことが正解なのだろうか。

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