人をつなげていくのが会社なんだ

 Gさんは再入院する前に、部員を集めた。新製品発表まで2週間あまりだった。
 「今回の製品は自信作だ。でも、世の中がどう受け止めてくれるかは、我々にかかっている。最後まであきらめるな」
 再建途上の会社に何ができるのか? まだ世間に残っているそんな空気を一掃できるかは、その日にならないとわからなかったのだ。

 しかし、努力は実った。
 「新生の象徴」「逆襲ののろし」そんなヘッドラインが並び、トップニュースに取り上げたテレビもあった。「復活への軌跡」という連載をした新聞もある。
 「攻めの広報」は、ようやく実った。社内が一丸となり、知らぬ間にメディア各社もその空気に巻き込まれていった。しかし、その最大の立役者は病床にあった。

 それからほぼ1ヶ月後。突然の悲報が届いた。
 Tさんは、その日外出していて午後にオフィスに戻った。ドアを開けた瞬間に、凍り付いたような空気が漂っていたことを思い出す。
 とある新聞社の記者が、Tさんのところに来て朝刊を見せた。そこには、新製品の販売が順調だと書かれていて、「完全復活へ」という見出しがあった。

 「せっかく書いたのに…見てもらいたかったのに……」
 ふと横を見ると、記者の目が真っ赤だった。
 「どうして……」
 そう呟いた記者は後になって「親父をなくした時よりつらかった」と言った。Gさんは多くの人に愛されて、それなのにあっという間に走り去って行ってしまった。

 ふと気づくと、TさんはGさんよりも多くの日を生きていた。しかし、「何一つ追いついていない」と今でも感じている。
 Gさんは、永遠の目標だ。そういう人と時間を共有しただけで、自分の会社員生活は幸福だったとTさんは確信している。

■今週の棚卸し
 どれだけ健康に気をつかっていても、避けられない病はある。そして、在職中に旅立ってしまう人がいる。その後に、残された想いを継承している人たちがいる。
 会社は先人たちが残した、無数の資産によって成り立っている。存命か否かにかかわらず、時に先輩たちの言葉を思い起こして、それを次の世代に伝えていくこともミドル世代の大切な仕事ではないだろうか。

■ちょっとしたお薦め
 命の大切を語る本はたくさんあるが、生きることの意味を考えさせてくれる本に巡り合うことはなかなか難しい。
 子ども向け絵本の名作として知られる『100万回生きたねこ』(佐野洋子・講談社)は、大人にもファンが多い一冊だ。シンプルなストーリーだが、強く心を揺さぶられる。
 来し方行く末を静かに考えたいような時に、何度でも読み返したい本として手元に置いておきたい。