出足は好調も、すぐに「異変」が…

 独立に際しては、周囲は祝福してくれた。どちらかというと、人が嫌がるような仕事も引き受けてきたRさんは、営業スタッフからしても重宝な存在だ。独立したRさんに、広告主からの依頼を「丸投げ」することも可能になる。

 インターネット関連については同年代の営業でも苦手な者が多い。Rさんであれば、そのあたりのことも忖度して対応してくれる安心感があった。

 そんな発注を見越して、勤めていた会社の近くに事務所を設けてアシスタントも雇った。そして最初の1年は順調すぎるほどの船出だった。慌ててアシスタントを増やしても、追いつかないほどだった。

 Rさんの仕事に「異変」が起きたのは、独立して3年目になる頃だった。発注される仕事の内容が、段々と自分の経験でカバーしきれなくなってきたのである。

 理由の1つは、スマートフォンの普及だった。今では当たり前のようになっているが、「スマホ対応」のサイトが求められるようになってくる。今までの延長線で対応できる部分もあれば、一から考え直す必要もあった。

 Rさんにとって、インターネットといえばパソコンのブラウザーだった。その中で、美しく実用的なデザインを作ることにおいては業界でも評価が高い。しかし、スマートフォンに対応したデザインにはどうしても馴染めなかった。

 いくつかの案を出しても、広告主もなかなか首を縦に振らない。むしろ若いアシスタントが考えたアイデアの方がスッと通ったりする。広告主の会社でも、若いスタッフが担当を任されているようだ。

 スマートフォンを使いこなしている者どうしの方が話が早い。間に入っている古巣の営業も「もうわからないんだよ」と愚痴をこぼすようになった。

 かつて新聞や雑誌広告に執着していた同僚を見ていたRさんは、時代に取り残される恐ろしさを知っていた。しかし、気が付くと自分もまさに危うい位置にいることを感じた。

 その一方で得意だったはずの分野でも問題が起き始めていた。

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