「追われる管理職」よりはいいかもしれないけど

 「でもさ、忙しいだけまだいいと思うよ」
 聞き役に回っていた、Kさんがボソッと言った。入社してから本社系の部署が長く、いまは財務部門にいる。
 「いや、俺は銀行とかの付き合いが多いわけよ」
 「アッ……」と誰もが思った。
 大手の金融機関が、大規模なリストラを始めるということはニュースにもなっていたのだ。

 「本当に戦々恐々としているけど、もうジワジワ始まっているんだよね」
 Kさんによると、結構前から担当がどんどん若くなっているという。経営陣の世代交代が進み、役員から現場の管理職までその影響を受けるのだ。
 そうなれば、今までの管理職は「どこかに行く」ことになる。そして、行き先がなくなれば、人員削減の対象となるわけだ。
 お互いにどうなるかわからないから、会社の空気もピリピリする。
 「俺たちみたいにこうやって、集まって話ができるなんて、信じられないだろうな」

 とはいえ、「仕事があるだけありがたい」というわけではない。やはり、次の世代が育っていないことが、Hさんたちの忙しさの原因であることは間違いないのだ。
 「次世代へのスキルの継続性、みたいなテーマで考えていかないか?」
 グローバル人材の不足に悩むGさんが言うと、すかさず営業のOさんが大声を出す。
 「それよりも、いまの“働き方改革”っておかしくない?」
 「おい、この研修は人事部主催なのにそれ言うのか?」と、今度はKさん。
 侃々諤々の議論が始まり、Hさんは改めて思った。
 「いまの自分たちの忙しさの原因を考えてちゃんと手を打てば、もっといい組織になるかもしれないな」
 そして、自分はこの会社が好きなんだな、と改めて確信したという。

■今週の棚卸し
 管理職、特に部署長に業務が集中している傾向は多くの企業で見受けられる。原因はさまざまだ。もちろん「部下に残業を強いることができない」というのも理由の一つだろう。
 しかし、冷静に分析すると「組織としてのスキル」が欠落して、個人に依拠しているケースが多い。またグローバル化など経営の舵取りに対して、現場の人材が追いついていないこともある。
 いわゆる「課長クラス」への負担が高い組織は、早いうちに仕事や人材配置の見直しを図るべきだろう。

■ちょっとしたお薦め
 経営学者の高橋伸夫氏の『できる社員は「やり過ごす」』は、日本企業の組織行動をとてもユニークな視点で分析した本だ。「やり過ごす」というのは悪い意味ではなく、中間管理職がいろいろな業務をうまくやりくりすることで、組織が回っていくという視点だ。
 本書は1996年に書かれたもので、いま読むと「昔の職場」の話に見えるかもしれない。しかし、「なぜ職場が変質したのか」を考える上では格好の素材ではないだろうか。過去の優れた分析が、現在の課題を浮き彫りにすることもあるはずだ。