働き方改革も「逆風」になって

 その研修に参加するのは、20名あまり。月に一度集まって、グループごとにワークショップをおこない、最終日には経営陣に提言をする。みな、一定以上のパフォーマンスが評価されたメンバーたちだ。

 集まれば、まずはメンバーの近況報告である。Hさんは、「任せられない仕事」の話を始めた。
 「そうなんだよ。オレもなぜか一番忙しいんだよ」
 すぐに同意したのは営業部のOさんだ。彼のチームでは、頼りにしていた補佐役が海外に転出したことが一因だったようだ。部下への同行も増えて、彼らの報告書をまとめたりするのも、結局Oさんがやっているという。

 「それに、“働き方”がどうとかいうのが、きついんだよな」
 昨今の流れを受けて、労働時間を減らそうという機運は社内でも強まってきた。毎月の残業の上限時間を厳しくした上に、事前届け出や週単位での基準まで決められた。
 労働時間を守ることができなければ、管理職の責任となる。しかし、仕事は早々に減るわけではない。結局は、チームリーダーがやるしかないということなのだろう。

 「なんか、“人の空白”があるんだよね」
 そう言ったのは、海外事業本部のGさんだ。ここ数年、会社の業績はたしかにいい。Gさんの関わる国外市場は特に貢献している。
 「でも、急に伸びたからわかるヤツがいない」
 キャリア採用を強化しても思ったような戦力にはならず、「いけるかな」と思う者はまたどこかに転職してしまう。

 (たしかに、「わかるヤツ」がいないんだよな……)
 Hさんの周りもたしかに、そうだ。しかし、考えてみればこれは構造的なものではないか。議論は、そんな方向に向かっていった。
 10年ほど前の金融危機に続くリセッションで、社の業績は大きく後退した。その後、死に物狂いで様々な手を打って、ようやく開花していることも多いのだ。
 Hさんたちは30代半ばの中堅で必死に頑張った。だから、いまのビジネスの勘所もわかる。しかし、その結果として当時の20代を育て切れていないのだろう。
 仕事効率を優先して、「とにかくこれをやれ」とアサインメントをはっきりさせた。そして縦割りが進んでしまい、「蛸壺化」が起きる。
 そうなると、広く目配りをしていけるのはHさんたちの世代になるのだ。
 「結局、忙しいのは自分のせいか……」
 Hさんは、思わず自虐的につぶやいてしまった。