延々と終わらない「チームリーダー」の仕事

 「いつからこんなことになっちゃったんだろ……」
 誰もいなくなったオフィスで、Hさんは思った。大手消費財メーカーの企画部門の第一線で働く「課長職」で、部下は8人。しかし、いまフロアにいるのはHさんだけになってしまった。

 とにかく、忙しいのだ。4年ほど前に今のポジションになった時も、そこそこには多忙だった。ところが気がついたら、周りの中で一番忙しくなってしまった。
 どうにか仕事も片付きそうなので、Hさんは帰り支度をしながら考えた。
 「そもそも、“プレイング・マネージャー”とか言い出した辺りから怪しいんだよな」

 Hさんの肩書は、「チームリーダー」だ。かつては「課長」だったのだが、Hさんが昇格する少し前に変更された。会社の説明によれば、単に流行りでカタカナにしたわけではない。
 これからの部署長は「プレイング・マネージャー」であるべきだという。つまり、「管理するだけ」が仕事ではなく、自らも前線に出るということらしい。
 では、給与が増えるかといえばそうではない。何やら怪しいと思ったのだが、「まあ、そんなものだろう」と思っていた。

 たしかに、昔の管理職は「判を押す」のが仕事だった。それだけで給与がもらえるのはたしかに甘いだろう。だからHさんも、現場の仕事を続けた。
 事業部の定例会議に出る一方で、企画のミーティングにも出て、アイデアをまとめた。若手が早朝に勉強会を始めたというので、時には参加した。そうやって、部下も育ってきた。
 それなのに、「自分でなくてはできない仕事」が増えてしまったのだ。

プロジェクトと折衝に追いかけられ

 別に、Hさんが仕事を抱え込んでいるわけではない。にもかかわらず人に任せられない仕事が増えてきた。
 今日作っていた書類は、横断プロジェクトにかかわるものだ。役員の管掌でメンバーの中でHさんは最も若い一人だ。事前準備などの役回りから、逃げるわけにはいかない。

 先月は、海外の工場まで出張に行った。以前なら部下に任せていたのだが、話がややこしくなっているのだ。製品は好調で営業は「もっとよこせ」というのだが、生産現場の動きは鈍い。
 Hさんが工場まで行き、帰国したら営業との折衝である。いろんな「貸し借り」もあり、部長や役員への根回しが必要だ。そうなると、どう見ても自分以外に適任がいないのである。
 そして、来月からはとある企業との提携交渉が始まる。そもそもが、社内でもごく一部の人しか知らないことだ。つまり、そうそうと部下には任せられない。

 チームのメンバーは、よく頑張っている。それなのに、ビジネスの難度がそれ以上に高まっているのだ。とにかく「やるしかない」のである。
 ただし、Hさんは少しホッとしていた。この週末は、研修があるのだ。同世代の40代前半を中心にした選抜型の研修で、仲のいいメンバーに会える。ただし金曜から土曜にかけてなので、休みは減ってしまう。
 「でも、家にいるより休めたりするもんだよ」
 そういう者もいて、Hさんも同感だった。研修所はなかなか快適だし、会社でも家庭でもない場所にいられることはありがたいのだ。