大学は「今の居場所」にもなる

 その同期会があってから間もなく、Mさんは関連会社に出向する内示を受けた。思ったよりも「早いな」という感じではあったけれど、意外ではない。
 新社長の改革スピードは相当に早く、人事の代謝も早まっていた。ただ、会社の業績は上向きで、社内には活気がある。また、株価は高値を更新していた。

 社員も投資家も、社長の出身大学を気にしているわけではない。当たり前のことだが、Mさんは「社会の掟」を改めて感じだ。
 しかし、以前のように悶々とすることはなかった。会社の業績がよければ、自分の給与も払われるだろうし、年金だってそこそこどうにかなるだろう。
 ちょうど、人生を見つめなおすにはいいタイミングだと思うのだ。

 Mさんの気持ちが変わったのには理由があった。あの同期会の後にAさんから届いたメッセージだ。
 とりあえずAさんは「これからの会」を作るという。つまり、先日言っていた「これからの楽しみ」を探そうというのだ。メンバーは、大学の親しい同期数人で始めるという。
 手始めに第一回は「誰でも登れそうな山」に行くという。「何のアイデアもなくて申し訳ない」と書いてあったが、それで十分だった。
 子会社できちんと勤めを果たしながら、旧友と休日を満喫する。ある意味、これは理想的な「おとなの生活」のように思えてきた。

 やがて、Mさんは大学について大きな勘違いをしてきたことに気づいたという。
 学校を過去のことだと思うから、「学歴」にこだわってしまう。それより、学校は「また帰る場所」だと思えばいい。
 MさんやAさんの仲間はジワジワと増えてきた。集まる時は、みんな楽しそうだ。
 そして、「本当にいい大学を出たんだな」と、Mさんは実感しているという。

■今週の棚卸し
 学歴にこだわる人は、他人の出身校を気にして無用のストレスを貯めているのではないだろうか。一方で母校を大切にして、人とのつながりを充実させれば、新しい出会いも充実していくはずだ。
 大学生活で得られる最大の宝は友人だと言われるが、それを実感するのは人生の後半になってからという人が多い。また、その実感を得られないまま歳を重ねてしまう人もいるようだ。
 会社員生活の「先」が見えてきた時にこそ、旧友が助けてくれるかもしれない。

■ちょっとしたお薦め
 大学を舞台にした小説は多いが、誰もが共感できるものは意外と少ないように感じる。「大学生活」と言っても人それぞれだし、どの街を舞台にするかで印象は大きく変わる。
 それでも多くの人が「学生時代ってこんな感じだよな」という感覚が蘇る小説の1つが、伊坂幸太郎の『砂漠』でないだろうか。
 登場人物の心の揺らぎが感じられて、どんな世代の人でも「若かったあの頃」に連れていかれると思う。ちょっとファンタジーの要素も加わったユニークな傑作だ。