社長交替を機にMさんは改めて学歴が気になるようになった。いろいろなニュースを見たり、記事を読んだりしても出身大学をチェックする。すると、思ったよりも自分の同窓が出世しないような感じがしてきたのだ。
 そうやって見ていくと、政治の世界も気になる。内閣が発足すると新大臣が発表されるが、Mさんはまず出身校を見る。
 ちゃんと比較したわけではないけれど、昔に比べて自分と同じ大学の出身者は減っているような気がしてきた。

 別にMさんは、学歴をひけらかすようなタイプではない。ただし、心のうちには強いプライドがある。そうなると、どこか悶々としてしまう。
 無理を言うような性格ではないし、評価も公正なので、部下からの評判が悪いわけではない。ただし、「あまり心を開いてくれない」というイメージは段々強くなっていった。

 ある時、新入社員が入ってきて歓迎会になった。自然と大学時代の話になり、誰かがMさんの出身大学の名前を挙げた。
 すると、その新入社員がこう言った。
 「へえ~そうなんですか」
 Mさんは、この一言にがっくり来た。別に彼の言葉づかいが失礼とかそういうわけではない。以前なら、まず「へえ~すごいですね」と言われたのだ。
 些細なことのようだが、こうやってMさんは「逆学歴コンプレックス」のような状態になっていったのだ。

「できるやつ」はこの会には来ないよ

 やがて50歳を回った頃、MさんはSNSで大学の同期が集まるグループに参加するようになった。
 そこは、なんとなく居心地がよかった。母校近くの飲食店が店じまいするとか、学生スポーツの結果とか、他愛のない話題が中心だ。Mさんはあまり書き込むことはないけれど、眺めることは多かった。

 全学部が対象なので知らない者もいるが、旧友も結構多い。やがて、このグループ参加者を中心にした同期会をおこなうこととなった。
 久々に集まると、話は盛り上がる。誰にとっても、居心地がいいのだろう。酒が進んで話が盛り上がると、段々と「いま」の心情が口に出てくる。
 すると、みんなMさんと同じような立場になっていることがわかってきた。誰もが「いま一歩」のところで悶々としているようなのだ。

 やがて、パーティは終わり親しい者同士で二次会となった。数人でテーブルを囲むと、話も段々と「言いにくかった」ことになる。
 そこには、新聞社に勤めているAさんもいた。事情通の彼は、こんなことを言いだした。
 「まあ、本当に第一線の連中はここには来ないんだよな」
 なんとなく、みんなが薄々と気づいていたことだけれど、改めて口にされると、ちょっと気まずい感じになった。

 同期では役員になる「最後の勝負」を前にして必死になっている者もいる。もちろん既に、取締役になった者だっている。SNSに投稿している場合ではないだろう。
 そういうAさんも、「微妙な立場」と自嘲する。編集委員という肩書だけれど、「次があるわけでもない」と言うのだ。自分の出身地の支局に帰った連中のほうがよっぽど楽しそうだと話すが、Aさんは「あいにく」東京出身だという。
 「まあ、仕事は淡々とこなして、なんか楽しみ見つけないとなあ」
 そういうAさんに、みんなが頷くわけではない。まだ、会社から卒業するには早いと感じているのだろう。

 思わず、Mさんが尋ねた。
 「でも、楽しみってどんなことなんだ?」
 「いや、それがわからなくてさ」
 Aさんは苦笑する。学生時代は海が好きでサーフィンもしていたAさんだが、すっかりご無沙汰らしい。
 「まあ、今度は山でもいいし。なにか習い事でもいいし。ただ、これからはこうやって学生時代の友だちと一緒にいたいな」
 まだ、割り切れない感じはあったが、Mさんは少し気分が晴れた気がした。その理由は後になってわかった。