「ちょっと甘やかしてるんじゃないか」
Uさんは、G君の現在の仕事をすべて後輩に引き継がせた。その後に取り組ませたことは2つ。
1つは、始まったばかりの米国企業との提携プロジェクトの中核メンバーとして、徹底して企画と交渉の力を磨くこと。
もう1つは、英語力を伸ばすこと。仕事量を減らす代わりに、会社の自己啓発制度を使って勉強させることにしたのだ。
「ちょっと甘やかしてるんじゃないか」
そんな雑音が入ってきても、Uさんは動じなかった。
それというのも、Uさんは単にG君のことだけを考えたわけではないからだ。いまの仕事の担当を見直してみると、30代が手薄になっている。ある程度育ったところで、海外に赴任したり、異動になったりということが続いて、このままでは次代の人材が足りなくなる。自社のメディアビジネスの将来を考えた上での、布石でもあったのだ。
そして、G君はよく頑張った。黙々と仕事をこなして、段々と目つきが変わってくる。ある朝、めずらしく髪に寝癖がついていたので冷やかしたら、間もなく短く切ってきた。
「合コン誘っても、全然乗って来ないんですよ」
20代の若手がそんな呑気なことを言っている間に、プロジェクトも相当進行した。紆余曲折があったものの、一年余りが経ってプロジェクトは予定した以上の進展をみせて一段落した。広報室と連携してプレスリリースをまとめて、対外発表も終わった頃にUさんは異動の内示を受けた。
まったく予想していなかった、経営企画部に行くことになったのだ。
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