「仕事の本」と「好きな本」を並行して読む

 たしかに、学び方は難しい。しかし、R君から聞いた別の話にはみんなが「なるほど」と頷いた。
 彼の大学院時代の少し上の先輩で、大学で教えている先生の話だ。名前に聞き覚えがあったが、最近よくエッセイなどを書いている人である。
 最新テクノロジーのことを、とても分かりやすく解説するのでメディアで見る機会も増えているが、最近R君は直接話を聞いたらしい。

 「彼は、常に2冊の本を並行して読むらしいんだよ。1つは仕事の本で、もう1つは仕事以外の好きな本。難しい理論の本を読みながら、疲れると小説を読んだりするらしいんだ。」
 それが、文章のうまさにつながっているのかもしれないと、K子さんは思った。しかし、効能はそれだけではないという。
 「小説を読んでいて、なぜか仕事のヒントが見つかることもあるらしいよ。本人が言うには、脳のあちこちで発火するからいいんだってさ」

 さすがに、その感覚はわからなかったけれど、とにかく時間を作っていろいろな刺激を得ることが大切なんじゃないか。一同は、そういう話になった。
 本を読むのはもちろん、セミナーに行く機会をつくる。ネットやテレビにも大切な情報はあるはずだ。ただ勉強はもちろん大切だけど、アタマでっかちの落とし穴もたしかにありそうだ。
 「その先生のような方法論を持っている人は社内にもいるだろうから、今度聞いてみるのもいいんじゃないかな?」
 そんなことを言う者もいる。それもたしかにいいかもしれないと話は盛り上がる中、K子さんはふと口にした。

 「でも、こうして集まってマジメな話ができる仲間がいると、あまり気張らなくても自然に勉強できる気がする」
 するとみんなが頷き、近いうちの再会を約束したという。

■今週の棚卸し
 ビジネスパーソンの勉強の方法は人によってさまざまだ。いろいろな方法論が語られているが、受験勉強のように試験に向かって進めていくようなものではない。遥かに長い時間をかけて、その時の環境と自分の成長を見極めながら、勉強の方法を考えていくことが求められる。
 若い時には暗中模索が続くかもしれないが、一定の年齢になった時には自分なりの方法論を確立してくことが必要だ。新年を機会に、自らの能力をセルフチェックして、学び方を再考してはいかがだろうか。

■ちょっとしたお薦め
 学びの基本の1つは読書だろう。さまざまなガイドはあるけれど、「本を読むこと」それ自体を論じたものに触れてみることもおもしろい。19世紀ドイツの哲学者ショーペンハウアーの『読書について』は、やや逆説的ではあるけれど、「本を読むこと」と「考える」ことについて掘り下げた一冊だ。
 文庫で150頁ほどなので、哲学書に馴染みがない人でとっつきやすいし、鈴木芳子氏の新訳(光文社古典新訳文庫)は特に読みやすいと思う。

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