農林中央金庫、料理教室大手のABCクッキングスタジオなど4社がこのほど提携した。「食と農」をテーマに訪日外国人などを地方に呼び込み、交流人口の増加を図る。異例のタッグの先に見据える、農林水産物の普及拡大への一手とは。
今回提携したのは農林中金とABCクッキングのほか、旅行情報サイトのリクルートライフスタイル、JAグループ旅行会社の農協観光(いずれも東京都千代田区)の4社。3月9日、提携発表の記者会見で、農林中金の山田秀顕常務理事は「私が仙台支店長のとき、各社と協力して東日本大震災の被災地の復興支援に携わったことがきっかけ」と経緯を説明。「4月以降にまずモニターツアーを企画し、その後、本格展開していく」と方針を話した。
3泊4日で農業体験や和食作り
提携の仕組みはこうだ。農業体験や、収穫したての食材を使った調理体験などを盛り込んだ3泊4日程度の旅行ツアーを企画。参加者が調理体験する和食のレシピをABCクッキングが開発するなど、各社のノウハウを持ち寄る。農林中金はグローバルな投資家としての高い知名度を生かし、国内外の取引先に声をかけて、ツアー客の誘致に協力する。
主要な国際空港がある首都圏と近畿圏で始め、順次地域を広げていく。まずはABCクッキングが海外で展開する料理教室の会員に、ツアーに参加してもらう。
カギとなるのが、この海外会員だ。海外では中国の上海や北京、香港、シンガポールなど8都市に16スタジオがある。会員数は3万5000人を超え、20~30代の富裕層の女性が多い。
日本での農業体験や調理体験を通じて、品質が高い日本の農林水産物や、それらを使った料理を学ぶ。それぞれの国に持ち帰って食材や料理を周囲に広めてもらえれば、日本の農林水産物の認知度が向上し、輸出の増加にもつながるというわけだ。ABCクッキングの櫻井稚子社長は「SNS(交流サイト)での発信力がある海外会員のネットワークを生かし、より多くの方に日本に来ていただきたい」と話した。
政府は農林水産物を2020年までに1兆円に増やす目標を掲げる。農林中金の山田常務理事は「今回の提携を通じて、輸出の増加に少しでも貢献したい」としている。
国内農業ではこれまで、良い農林水産物を作れば自然に売れるという提供側の「プロダクトアウト」の発想が根強かった。今回の提携は訪日外国人の意見を取り入れながら、消費者が求めるものを的確に生産、提供する「マーケットイン」への発想転換にもつながる。
アイリスオーヤマグループ工場(宮城県)の精米機。低温で精米し、食味の良い白米を国内外で販売する
アイリスオーヤマは、農業に「マーケットイン」の発想を持ち込んだ企業の代表例だ。仙台市の農業生産法人と共同出資会社を設立し、2013年にコメの生産販売に乗り出した。
コメは家庭で保存食という性格が強く、これまでは5kg~10kgなど大きな容量で販売するのが一般的だった。量が多いため、食べ切るまでに時間がかかる。買った直後は良くても、時間がたつにつれて酸化が進み、味が落ちる問題点があった。
低温で精米、販売は小分けに
アイリスオーヤマは販売方法を改め、コメを1パック2~3合(300~450g)と一度で食べ切る量にして売り出した。加えて工場では、保管から精米、包装まで全ての工程を15℃以下で行う。低温を維持して熱によるコメの酸化を防ぎ、パックには脱酸素剤も入れることで、鮮度を保ったまま食味の良い白米を作り上げた。
2015年にはマレーシアへの輸出も始めた。日本人駐在員が多く和食ブームも高まっているが、日本からのコメ輸出量が香港、シンガポールなど他のアジア地域に比べるとまだ少なく、今後の伸びが期待できると判断した。
実際、店頭でも好評だ。マレーシアの首都クアラルンプールにある伊勢丹のKLCC店。地下の食品売り場の目立つ場所にアイリスオーヤマのコメが並べられている。三越伊勢丹ホールディングス現地法人の担当者は「現地の富裕層が売り上げの3割を占めるようになった。白米に合う、のりや佃煮なども売れる」と話す。
アイリスオーヤマは2016年、マレーシアに300tの輸出を計画している。マレーシアは現在、日本のコメに対して40%の関税をかけているが、TPP発効から11年目には撤廃する方針。販売価格の低下につながり、輸出増につながりそうだ。
アイリスオーヤマのコメは、米国ハワイ、カリフォルニアの日系スーパーでも取り扱いが始まっており、輸出先をさらに広げる考え。電子レンジで温めるだけで食べられるパックご飯や、餅など、調理の手間が少なく済む商品も売り込む方針。大山健太郎社長は「海外でも時間をかけてコメ食文化を普及させたい」と意気込んでいる。
Powered by リゾーム?