地味だからこそ光る商社の存在感

 浅居の商魂は日本農業にとどまらず、苦境に立たされた商社が復活する一つの術にもなり得る。浅居は1975年、三井物産に入社。生活関連商品を扱う「物資部」が長い。確かに、1000億円単位の投資マネーが海を越える資源・エネルギー事業のような派手さはない。総合商社はスケールの大きな海外ビジネスが多い分、地道な商売ほど「傍流」「二選級」と見られがちな企業文化が潜む。

 浅居は大阪に勤務していた1990年ごろ、中国出張で変速機の付いていない自転車が多いことに驚き、自転車部品メーカー・シマノ製の後付け変速機を現地に売り込んだ。それでも売り上げだけ見れば、5年で年15億円がやっと。1994年から4年間駐在したバンコクでは、石炭火力発電所の建設に奔走する同僚の傍らで、石炭を運ぶベルトコンベアーの受注に足を運ぶなど、「裏方」に徹してきた。

 「商売って言うのは地味なほど9:1の法則があるんですよ。9は物産の看板、残り1はパーソナリティ。いわば、小さいけど僕個人の信用ってとこですかね」。浅居には地味な商品を多く扱ってきたからこそ、会社のブランドに甘んじてこなかったという自負があるのだろう。「個人の信用を1しかないと見るか、1もあるとみるかでビジネスの広がり方は全然違ってくる」(浅居)。

「損はもっと出していいぞ」の極意

 さらさらゴールドの市場開拓も同じだ。タマネギを入れるネットや段ボール、商品の札、カタログのデザインにはプロのデザイナーを起用した。売り場でのディスプレーなども含め、高級感を醸し出すように工夫した。三越伊勢丹、高島屋、大塚食品――。さらさらゴールドを店頭に並べてもらったり、加工食品に使ってもらったりとセールスは他人任せにはしない。

 翻って、巨額の損失を計上した三井物産に目を向けると、中国の需要爆発がもたらした商品市況の高騰に酔いしれて、結果的に割高な事業投資案件に手を広げて来なかっただろうか。資源市況が下がれば、過去の投資案件の価値が毀損し、巨額の損失が出るのは目に見えている。大切なのは損切りを短期で終わらせ、後に引きずらないことだ。

 浅居が照準を合わせているのは、機能性を持つタマネギとして初めて消費者庁から認定を受けることだ。機能性を実証するデータなどを、早ければ今年夏にも提出する見通し。機能性のお墨付きで出荷に弾みが付けば、念願の年商1億円超えが視野に入る。

 物産会長の飯島彰己は、農産物こそ次世代の有力ビジネスであることを認めながら、こう付け加える。「目先の損はじゃんじゃん出していいぞ。商いの規模は小さくても、着実な歩みを見せる商売があるならもっと投資しようじゃないか。そこに人と人、国と国をつなぐ商社の存在意義があるなら…」。

 タマネギの商売は、三井物産が様々な領域で取り組むべきビジネスのモデルケースになり得る。浅居は、この上ない達成感で3月31日を迎える。