管理職へのルートが多様化している

 役員世代と違う第三の点として、管理職への昇進ルートが多様化していることが挙げられる。管理職は本社総合職採用のみ、という単線型の昇進ルートが崩れつつあるのだ。

 JAL執行役員の屋敷和子さんのような、勤務地限定の一般職から管理職への登用は「点」のケースで、後続の女性はさほど多くはない。しかし、JAL本社以外のグループ会社採用の女性が空港支店長に就くなど本社の昇進ルート以外の道が拓ける中で、屋敷さんは幅広い女性たちからモデルとして仰がれている。

 いま各社が進めるのが、地域限定総合職にも管理職登用の道を設けるというものだ。このルートは点から「線」になりつつある。

 みずほ証券の権田麻衣さん(34)もまた、その一人。地域限定総合職のまま新宿営業第二部コンサルティング二課長兼店頭サービス課長となり、20代から50代までの部下男女6人を束ねている。「管理職になることなど考えていなかった」という権田さんの考えが変わったのは、引き上げてくれる上司の存在、そして社内研修への参加による。

みずほ証券の権田麻衣さん。「(課長とは)女性なのにすごいね」と顧客から  言われることも多いという
みずほ証券の権田麻衣さん。「(課長とは)女性なのにすごいね」と顧客から 言われることも多いという

 入社7年目、営業部門で年次筆頭となったとき「自分が頑張らないと下が動かない。自分が一番でなければいけない」とスイッチが入った。毎月、80人ほどの営業部員の中で常にベスト3に入る成績を収めた。そうした姿をみていた本部長が「君はこれから活躍する人材だ。どんどん上に上がっていく人材だ」と折に触れて声をかけてくれ、社内の女性管理職育成プログラムに送り出してくれた。いずれ管理職にと見込まれる人材を上司が推薦する選抜型研修である。「あ、私も管理職を目指していいのか」と目覚めることになる。

 直属の上司から、そして会社からのメッセージを受けとる中で、次第に上を目指す気持ちが固まっていった。応援してくれた上司は自身の送別会の席で「君が課長を昇格させろ。そして君が課長になれ」という言葉を残してくれた。「この約束を果たそう」と心に誓ったという。

 女性管理職を育成しようという機運の中で、以前ならば対象とならなかった層が、候補グループに入り始めた。これを「下駄をはかせている」とみるか、「管理職の多様性が広がる」とみるか。その評価は、登用後の活躍にかかっている。ただし、ひとつ確かなことは、思い切ってチャンスを与えようという直属上司の引き上げがなければ、昇進の多様なルートは拓けない。

「管理職一歩手前」の育成に力を入れ、パイプラインを形成する

 女性管理職の育成においては「パイプラインの形成」が重要だ。役員、部長、課長、そして管理職一歩手前と、きれいなピラミッドを描くように予備軍が育っていないと、登用が途切れてしまう。

 女性管理職を対象にした研修やメンタリングといった育成策に加えて、管理職一歩手前の層に対して幅広く「底上げ」する施策が始まっている。

 みずほ証券では、2016年度までは権田さんが受けたような係長クラス向けの選抜研修を行っていたが、17年度からは間口を広げて管理職手前の女性社員に対して幅広く研修を行う。ワークライフマネジメントに的を当て、ライフイベントを経ても働き続けることを促すという。継続就業する人が増えなければ、パイプラインの形成はおぼつかないからだ。

 ホンダの場合は、管理職に就いていない女性社員全員を対象に、「キャリア計画書」の策定を促し、提出者は社内キャリアカウンセラーによるキャリア面談を受けられる仕組みを整えている。これまで計画書を作成したのは、対象者約3000人のうち約4割。始めた当初は手を挙げると「あの人は上を目指しているのかしら」といった目で見られがちだったが、今では本社から開発、生産現場まで職域は問わず、全国の事業所に広がる。年齢も19歳から55歳にわたるという。

 キャリア計画書では、今後15年にわたってどのような役割を担いたいか、どんな業務を経験したいか、キャリア形成イメージを具体化して上司と共有する。

 提出者に対するキャリア面談は約1時間、カウンセラーとじっくり話し合う。「私まだいいです」「私もういいです」とステップアップをしり込みする人に対しては「何のためにホンダに入ったのか」「何をやりたいのか」と問いかけながら、「あなたにも自己成長してほしい」というメッセージを伝える。悩み相談をしつつ、自立的なキャリア形成につながるきっかけをつくる。隔年でフォロー面談も行い、これまでの2年半ほどで延べ1700人が面談を受けたという。むろんキャリアのゴールは管理職だけではない。しかし、活躍する女性が増えることで、結果的に女性管理職の増加につながっていく。

 日本航空にとってもパイプラインの形成は大きな課題だ。管理職予備軍となる30代の女性社員が少なく、育成策に力を入れている。管理職一歩手前の30代女性社員を対象に2016年から行っている、役員グループメンタリングもそのひとつ。半年にわたり役員がメンターとなり、女性社員4、5人同時にメンタリングを行うものだ。役員との対話で高い視座を身に付けること、また女性社員のネットワークづくりを手助けすることが目的だという。

 ボトムアップで風土改革をしようと、2015年9月には社長直轄で「JALなでしこラボ」を立ち上げた。30代女性を中心に公募、推薦で集まった社員が10カ月かけて自由研究を行っている。テーマは無意識の偏見に着目した「バイアス&ビジョン」「インクリュージョン&バイアス」など。グループ全体に活動が広がっているという。

 こうした取り組みもあってか、管理職が若手女性社員を育成する意識も変わってきた。15年の社内意識調査では、「上司はメンバーひとりひとりの成長を考えた仕事の割り当てをしている」という設問への回答に、男女差があまり見られなかったという。仕事の割り当てに対する納得感で、男女差が縮まってきていることが分かる。

 女性課長らのキャリアの軌跡をみると、入社間もない時期の「初期キャリア」がその後の成長に大きな影響を及ぼすことがわかる。管理職手前の層に対して幅広く意識付けを行うことで、女性管理職のすそ野が広がっていくはずだ。

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