日本における女性リーダーの育成は先進国のなかで大きく後れをとっている。企業内でどのような経験を積んだ女性が、役員に就いているのか。どのような「一皮むける経験」がリーダーシップを育むことにつながったのか。キャリアの軌跡をつぶさに追うことで、企業内での女性リーダー育成のヒントを探る。

 第3回目は、本田技研工業で52歳にして初の生え抜き女性役員となった鈴木麻子さん(54)。執行役員日本本部営業企画部長として、国内市場のマーケティング戦略の指揮をとる鈴木さんのこれまでの歩みを辿ってみよう。

鈴木麻子

 1964年生まれ。87年に大学卒業後、本田技研工業に入社。南西アジア地区の2輪担当、アセアンの四輪担当を経て、98年、34歳のときタイに赴任する。以来、2回の本社勤務を挟み通算14年のアジア赴任を経験する。赴任先は数年ごとに変わり、タイ、マレーシア、ベトナム、中国の4カ国。2014年から中国・武漢で合弁会社の総経理(社長)に就く。16年、執行役員日本本部営業企画部長に就任。

 
鈴木麻子さんのキャリアの軌跡
※赤字は海外駐在
23歳 本田技研工業入社
26歳  実習、海外物流を経て、2輪南西アジア担当、続いてアセアン4輪担当となる
34歳  タイ駐在
37歳  マレーシア駐在
39歳  本社に戻り、アセアン2輪担当
41歳  ベトナム駐在。四輪の販売網立ち上げ
43歳  タイ駐在。アジア・大洋州本部地域事業企画室長となる
46歳  本社に戻り、財務部長となる
48歳  中国・北京駐在。中国本部地域事業企画室長
50歳  中国・武漢にある合弁会社の総経理(社長)に就く
52歳  執行役員日本本部営業企画部長に就任

 2016年に初の生え抜き女性役員についた鈴木麻子さん(54)は、タイ、マレーシア、ベトナムなどで14年に及ぶアジア赴任を経験、中国では合弁会社の総経理(社長)として社員8000人を率いてきた。

 初めてタイに赴任したのは34歳のときのこと。最近でこそ新興国に海外赴任をする女性社員も増えてきたが、20年前、アジアの現地法人に赴任する女性社員は珍しかった。先駆けとして苦労もあっただろうが、それについては多くを語ろうとしない。淡々とした口調で語るのは、アジアの新興国でどのような姿勢で仕事に臨むべきかという信条である。

 「万事如意」――鈴木さんの自宅には、タイの中華街でみつけた赤い札が貼られている。これを眺めるうちに、いつしか座右の銘となっていった。もともとお祝いごとの際に贈られる札で、すべてはあなたの思い通りに事が進むという意味だ。しかし、鈴木さんは自分なりの解釈で、この札を日々眺めている。一生懸命、気持ちを込めて事に取り組めば、相応の成果が出る。もしも失敗したとしたら、気持ちが足りなかったということ。そんな戒めとして、大切にしている言葉である。アジア勤務の過酷な環境のなかで、早くも30代のころから自分なりの哲学をもち、自らを律していたことがうかがえる。