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あえて、リテール部門にチャレンジした

 マネジャーとしての成長を自らも自覚し始めたときに起きたのが、冒頭の一件だ。営業成績が伸びるなか、無念のうちに部長職を去ることになった。

 部長を退くと同時に、ダイバーシティ推進室長の命を受ける。女性をはじめとする多様な人材が活躍できる職場をつくる「女性ならではのポスト」、これは絹川さんにとって実に不本意なものだった。ところが、ここでの経験が、のちのち役に立つことになる。単なる女性活躍推進にとどまらず、経営戦略として今求められるものは何かを深く学ぶことができた。これがさらに上の職位となり、役に立つことになる。

 臥薪嘗胆の時期を経て、46歳のときウエルスマネジメント部で部長に復活。48歳で成城支店長に就く。「リテール部門に手を挙げてチャレンジした」という。

 2009年に、みずほ証券と新光証券が合併。大企業や機関投資家向けビジネスを中心としてきたみずほ証券と、個人や中小企業向けリテール中心の新光証券が統合するなか、みずほ証券出身の管理職としてリテール部門に出ていったのだ。リテール営業は、男性中心で女性の管理職がゼロの世界。「女性のくせに」「女が乗り込んできた」とさんざんな言われようだったという。しかし意に介さなかった。営業は数字を出せば評価される世界。実績を出せば注目されるから、女性管理職のほうがかえって有利と考えた。

 48歳で成城支店長に、その2年後名古屋駅前支店長に就任。いずれも2年目に業績表彰を受けるなど、実績を上げる。2017年からは執行役員名古屋支店長として、総勢130人の支店を率いる。

 まずは「勝ちにいくこと」の意味を説く。数字を達成することでいかにハッピーになるか、ボーナスや昇進昇格にどう影響するかを説くことで士気を上げる。商品をどれだけ売ると、どのようにポイントがあがり支店ランキングに反映されるか、いわば「ゲームのルール」を営業のみならず事務職スタッフにまで毎月丁寧に説明する。

 それ以上に大切にしているのが「仕事の社会的意義」を部下に語ることだ。金融商品がどのように作り出され、社会的にどんな意味があるか。「本質的な意義を一つひとつ説いていく。自分たちの仕事がどれだけ社会にインパクトを与えるか、社会に役立つものかわからないと頑張れない」からだ。過酷な営業現場にあって、数字だけでは人はついてこないことを実感している。

 「楽しく仕事をしよう」が持論。むろん自分だけではなく、部下一人ひとりに楽しく仕事をしてもらいたいと心を砕く。苦しいこともあるが、楽しく仕事をしたい。ではどうしたら、楽しくなるか。「誰かの役に立っている」という実感と、やらされ感ではなく「自分がコントロールできている」という感覚が必要だという。部下にはできるだけ、自由度を与えるようにしている。ビジョンを示した後には、何をどのようにするかは部下に考えてもらう。そうした自由度を与えることが、仕事の楽しさとなり、部下の成長になると信じている。

 意義ある仕事をしたい、誰かの役に立つ、社会の役に立つ仕事でありたい。息子が入院したとき、とことん自問自答して得た答えを胸に、部下に向き合い仕事の意義を説き続ける。こうした部下とのコミュニケーションは、女性管理職のほうが得意なのかもしれない。