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女性のマイノリティ経験がダイバーシティ経営に生きる

 女性役員10人の共通項として、マイノリティの経験があることが挙げられる。野村証券に総合職として入社した鳥海さんは、総合職の同期300人中女性は7人。次々に同期の女性が辞めていき、ついに一人になった時期もある(1人が復帰して、のち2人となった)。同期300人中女性は一人、このプレッシャーは男性社員には分からないものだろう。キリンの神崎さんも、工場勤務で技術系の女性社員はほとんどいないという時代が長かった。総合職として働き続ける女性というだけでマイノリティであり、さらに幹部として階段を上がるにつれ、紅一点という場面がさらに増えることになる。

 ライフスタイルでも、子育てをしながらハードワークをこなす女性社員はごく少数、マイノリティの筆頭だった。今回登場した女性役員10人のうち独身が4人、既婚者6人。子どものいる人は2人である。子育てとの両立に苦慮した数十年前は「(社会全体が)性別役割分業意識も根強く、理不尽な思いをたくさんした。これが奮起するエネルギーにもなった」とJFEエンジニアリングの馬場さんは言う。

 しかし今やマイノリティの視点をもっていることは、強みである。マイノリティだからこそ、マジョリティの課題が見えてくる。少数派だからこそ苦労して「一皮むけた経験」をすることもあった。だからこそ多様な働き方、ライフスタイルの社員に対する配慮が必要だということが肌でわかるのだ。女性役員は概して、こうしたダイバーシティ・マネジメントの感度が高い。これからの時代、経営陣にも管理職にも求められる視点である。

 リーダーシップ・スタイルでもまた、女性役員らは新しいスタイルを実践する人が多い。上下関係で引っ張るのではなく、部下のリーダーシップを育み主体的に動くことを促すリーダー。いわゆるサーバント型リーダーシップである。日本航空の屋敷さんは、経営破たん後のグループ研修に、あえて係長クラスの次世代リーダーを送り出した。これから会社を担うのは若手リーダーである、ボトムアップで組織を変革するべきだと考えたのだ。高島屋の安田さんもまた、リーダーとフォロワーが時に入れ替わる組織の方が強いというのが持論。部下の声によく耳を傾ける。

 マイノリティの視点、ダイバーシティ・マネジメントの感度、サーバント型リーダーシップ、女性役員らの采配からは、新しいリーダー像が浮かんでくる。こうした経営陣が増えていくことで、日本の企業も少しずつ変わっていくのだろう。そのための手がかりとして、女性役員10人の軌跡から浮かんできた女性幹部の育成ヒントを、あなたの職場でも生かしてみてほしい。

■変更履歴
記事3ページに神戸大学の金井壽宏教授のコメントを追加しました。 [2019/1/15 18:30]