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ライフイベントがキャリアに影響するのは、女性役員ならでは

異動・配属による経験の分類
女性役員 男性役員
(関経連調査)
入社初期の配属 6 5
初めての管理職 1 2
プロジェクトチームへの参画 0 4
ラインからスタッフ部門・業務への配属 1 2
新規事業・新市場開発などゼロからの立ち上げ 9 20
悲惨な部門・業務の事態改善・再構築 4 10
昇格・昇進による権限拡大 6 7
その他、上記以外の異動配属など*注2 11 12
ライフイベントの仕事への影響(育児、介護など)*注3 7
45 62
  (注1)関経連調査は、『仕事で「一皮むける」』P27より抜粋
(注2)女性役員の⑧その他は11個のうち、左遷・降格が2、人からの影響が1、留学が1
(注3)関経連調査にないが、女性特有のものとして追加した項目。

 『仕事で「一皮むける」――関経連「一皮むけた経験」に学ぶ』(光文社新書)という本が2002年に上梓されている。関西経済連合会が神戸大学の金井壽宏教授の指導を受けながら、会員企業20社20人の経営幹部に「一皮むけた経験」の聞き取り調査を行った結果をまとめたものである。このときの調査対象、20人の経営幹部は全員男性だった。金井教授は、「当時は女性幹部が少なく調査対象とならなかった。男性役員と大差ない経験を積んだ女性役員が出てくるなど、10年前、20年前では考えられなかった」という。

神戸大学の金井壽宏教授(撮影/生田将人)

 当時の関経連調査では20人から62の「一皮むけた経験」を導き出している。本連載での女性役員のインタビューでは、10人から45の経験を聞き取ることができた。これを比較した上の図を見てほしい。一皮むけた経験を、関経連の分類に沿って「入社初期の配属」「初めての管理職」などに分類してみた。ここからも、男女大差ないといえそうだ。

 少し差があるとするなら「新規事業・新市場開発などゼロからの立ち上げ」の経験が女性役員にはやや少ない。元JR東日本の鎌田さんのように「エキナカ」をゼロから立ち上げて成功させたというダイナミックな経験を積んだ人も中にはいるが、男性に比べるとリスクの高い新事業を任される機会が少し限られているのかもしれない。

 ところで、女性役員の一皮むけた経験を分類するにあたり、男性キャリアの分類項目ともいえる「異動・配属」に、どうしても収まりきらないものがあった。「ライフイベントの仕事への影響」である。そこで女性役員ならではの「一皮むけた経験」の項目として、これを追加することにした。みずほ証券の絹川さんは、子供が長期入院をしたことがキャリアの大きな転機となった。JFEエンジニアリングの馬場さんは、子育てとの両立で味わった理不尽さが大きなバネになったという。子育てのみならず、親の介護経験を通してキャリア観の転換があったという役員も少なくなかった。

人は生涯を通じて成長する

一皮むけた経験が生じた時期
女性役員 男性役員
(関経連調査)
20代前半 1 4
20代後半 6 4
30代前半 9 10
30代後半 8 17
40代前半 9 11
40代後半 8 10
50代前半 4 6
50代後半 2 4
(注)関経連は『仕事で「一皮むける」』P28のグラフをもとに推計。22歳大卒で入社一年目として算出

 「一皮むけた経験」はいつ生じたのか。年代ごとにまとめてみると、上の図のように20代から50代に至るまで、すべての年代にわたる。「人は生涯にわたって発達する」と金井教授は言う。中でも40代を迎えると、自分と一緒に働く人にどのような学びを与えられるかという「世代継承性」が求められるようになるという。経営幹部として、職場のリーダーとして部下をどのように育てていくかが問われるのだ。

 再び関経連調査から男女の比較をしてみよう。関経連では入社何年目の経験かで分類しているため、かりに22歳で入社一年目としての推計値で比較するが、やはり全世代にわたっている。女性役員との違いをしいて挙げるなら、男性には30代後半で山があることだ。男性の場合、課長職手前の年代で管理職昇進に向けて大きな経験をさせる傾向があるのかもしれない。

 さて、読み進めるうちに自分にとっての「一皮むけた経験」は何だろう、と思った人もいるだろう。金井教授はこんな助言をする。まずは一皮むけた経験を書き出してみること。そして、その意味を理解するために自分なりに「意味づけ」をする。大切なのはややネガティブに振り返りがちな反省ではなく、自分の来し方をもとに将来を展望するための内省だという。ひとつひとつの経験が自分にとってどんな意味があったのか、その経験からどんな学びを得て、どう成長したのかを掘り下げるのだ。特にキャリア形成上、異なるステージに入ったときに、その意味を深く内省するといいという。