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役員への道に男女差がない、その4つの理由

 女性役員への道のりは男性役員と大差ない、その理由を4つほど挙げたい。ひとつはキャリアの初期で、仕事を任せて鍛えてくれる上司と出会っている。そんなことは当たり前だろうという人もいるだろう。しかし、今なお女性総合職をどう鍛えたらいいのか分からない、男性と同じように営業現場に出すと顧客から文句を言われる、と戸惑う管理職は少なくない。無意識のうちに男性のほうにより厳しい、成長につながるような仕事を与える管理職もいる。そうした中で数十年前から先進的な上司に恵まれ男女差なく鍛えられてきた女性が、成長の機会を得て今役員に就いている。

 例えば、パナソニックの小川理子さん(55)は新卒で配属された新規事業部門で「世の中にない音楽機器を開発する」というミッションのもと、寝食忘れて仕事をしたという。ホンダの鈴木麻子さんは、通算14年に及ぶアジア赴任を経験するが、海外ビジネスの基礎は20代から席を置いた海外事業部門で叩き込まれた。

 初期キャリアで、性別問わず育ててやろうという育成マインドのある上司に恵まれるか否か。これは女性にとってキャリア形成の重要なポイントとなる。今回登場した女性役員10人に共通するのは、こうした上司に恵まれたことである。

 二つ目に、転勤も海外赴任もいとわずキャリアを築いてきたことだ。キリンの神崎夕紀さん(55)は、福岡で地域限定職として入社しながらも次のステップを進むため、神戸工場立ち上げに参画したいと手を挙げた。日本航空の屋敷和子さん(60)も、地域限定の一般職で入社しながらも、管理職になってから神戸、札幌と転勤を経験した。二人とも「いつの間にか全国型総合職になっていた」と笑う。ホンダの鈴木麻子さんも、30代半ばでタイに赴任する際に結婚していたが、単身赴任の道を選んだ。

 女性にとって転勤がキャリア形成の壁となるといわれているが、少なくとも今回登場した10人にとって転勤が壁となることはなかった。従来の男性型キャリア形成と同じコースを歩んできた、だからこそ役員への道が拓けたともいえる。ただし、幹部候補の総合職に転勤を命じることが果たしてプラスになるのかという見直し議論もあり、今後は昇進にも多様なコースが用意されることになるだろう。

 三つ目は、修羅場の経験である。仕事を長年続けていれば、修羅場の一つや二つあるだろう、そうつぶやく人もいるだろう。ところが、修羅場を経験できるほど大きな仕事を任されたり、重責を担わされたりした女性が、これまでどれほどいただろう。

 楽天の河野奈保さん(41)は、執行役員に就いて間もなく楽天優勝セールの値引き問題で記者会見の場に立ち、批判の矢面にさらされることになる。みずほ証券の絹川幸恵さんは、41歳のときに部長をクビになる経験をしている。パナソニックの小川理子さんは、40歳前後でネットサービスの部門に社内公募で手を挙げて異動したものの、新サービス立ち上げで開始の遅れという手痛い失敗をしている。

 過酷な経験、失敗体験、こうした経験により「胆力」をつけた人たちがさらに上のステップに進んでいる。少数派の女性幹部は、多数派である男性からの無言の圧力を感じながらも、それをものともせず結果を出さなくてはいけない。そのためには、胆力なくして生き残れないのだ。

 四つ目に、「目をかけ引き上げてくれる人」に早い時期に巡り合っている。良き相談相手であるメンター、昇進の手助けをしてくれるスポンサーに恵まれたのだ。

 高島屋の安田洋子さん(58)の場合、高島屋初の女性代表取締役となった元専務の肥塚見春さんがメンターとして支えてくれた。肥塚さんはまた、高島屋初の女性取締役石原一子さんに引き上げられた。女性役員のメンタリングチェーンが続き、女性役員を育ててきたともいえる。

 JFEエンジニアリング常務執行役員の馬場久美子さん(52)は、前職の東芝時代に西田厚聰社長(当時)から大局的な判断を学んだという。カルビー上級執行役員の鎌田由美子さん(52)もまた、前職のJR東日本でエキナカを立ち上げるにあたり、新井良亮氏など著名な経営者らから直接、教えを受けた。優秀ならば男女問わず目をかけて引き上げる、こうした上司に巡り合わない限りチャンスは訪れない。

 組織でチャンスをつかむために必要なメンターにせよスポンサーにせよ、優秀な男性幹部にとっては当たり前の存在であっただろう。しかし、長らく女性にとっては、性別関係なく引き上げてくれるような上司に巡り合える機会は限られていた。連載に登場した10人は、幸いにもそうした上司に恵まれた。「幸運」任せではなかなか女性幹部は育たないとして、スポンサー制度、メンター制度といった仕組みを設けて、経営幹部と女性の管理職候補を人事部が引き合わせることも過渡期の策として求められている。