灘のトップの生徒ってどれぐらいすごいんでしょう?

藤井:高2で高3の全国模試のトップクラスにランクインされてましたね。社会に出ると医者になるケースが多い。ただ、トップ層には大きな組織の上に立つ親分肌は少ないイメージです。人心掌握がうまいタイプではないんですよ(笑)。優秀な人の母数が多いから、素晴らしい経営者もいますけど、私のイメージでは本当のトップはもう独自の境地に入ってますね。医者の中でも研究重視。

授業などで印象が残っていることはありますか。

藤井:やはり同期と切磋琢磨したことですね。こんな難しい問題解けた奴がいるのかとか、上には上がいるなとか、そんなことの連続。教育方針やカリキュラム にとりわけ特徴があるわけではありませんでした。生徒が自由闊達に高校生活を送れる環境を作ってくれているのが灘のいいところだと思います。

(中勘助の小説)「銀の匙」を3年間かけて読み込む授業なんて有名ですよね。

藤井:風変わりな授業があっても、それ自体が灘の売りなわけではありません。大事なのは、教員が手間をかけて手作りの授業をしてくれるということだと思います。当時の数学の先生は、前後の黒板を全部使って、各生徒に問題を事前に解かせておいて、みんなでそれを検討する授業をやってましたね。

 逆に、試験に参考書の問題をそのまま転載していた先生は授業をボイコットされました。手を抜くなと。生徒は手を抜かずに勉強しているのに、教員が手を抜いたら怒る。それが自然でした。生徒から教員へのフィードバック評価は最近は制度化されていますが、灘では昔から当たり前のことでした。小手先で何かやるやつは生徒でも教員でも軽蔑されるんですよ。本物志向。実力があるやつが実力どおりに評価されている世界です。

 いろんな学校や企業を渡り歩いてきましたが、集団としての優秀さは灘が一番だと思います。ハーバード・ビジネス・スクールにも行きましたが、リーダータイプばかりが集まるので、求道者のようなタイプは来ませんでしたしね。

藤井さんの経歴は、今でこそエリートビジネスマンの王道のようにも見えますが、当時としては珍しかったのではないですか。

藤井:それはやっぱり、面白いことやってやろうという灘のノリなんですよ。マッキンゼー(・アンド・カンパニー)に新卒で入るときは、親から勘当される勢いで反対されました。当時の外資系は日本の大手企業に内定をもらえない人が行っていましたから。私は商社も銀行も内定取ってました。それで外資にいく奴なんて同期にはいませんでしたよ。ハーバードに行くときも、日本ではビジネススクールって言ったら秘書養成学校のことでした(笑)。

マッキンゼーのどこに魅力を感じましたか?

藤井:社員の面白さですね。当時は日本の社員は15人ぐらいでしょうか。大前研一さんをはじめ、MBA(経営学修士)を取って日本のメーカーや金融から転職した人ばかり。すごい人がいることが、自分を高める環境だと灘でわかってましたから、迷いはなかったですね。日本の会社にはこんな人になりたい、と思う人がいなかった。

マッキンゼーやハーバードを経験しても、それでもやはり、灘が一番集団では優秀だと。なぜなんでしょう?

藤井:優秀な人が優秀な人を集める。軽薄な言い方だけど、最難関というブランド力なんでしょうね。学校の良さは、入り口の質、教育の質、卒業生の質、で決まると思います。つまり、ブランド、先生の厳しさ、生徒が憧れるような卒業生がいるか、ですね。灘は三拍子揃っている。先生もただ厳しいというだけじゃなく、本物志向です。本物の学びを目指すからこそ生まれる厳しさです。

今、高校の教育改革の議論が進んでいます。経営の視点から見て、どんなことを高校でやってほしいと思いますか。

 日本は進学も就職も決断ではなく選択ですよね。チョイスして進む人生に慣れている。例えば転職は違います。転職は決断。やらなくてもいいことですからね。チョイスばかりしかしてこないと、ソウルサーチング(自己分析)が浅くなる。

 だから、高校では、生徒が将来何をやりたいかを考える学びを深めてほしいと思います。何がやりたいのか、見つからなくてもいいから考えを深める作業をする。見つかることが一番いいけど、見つけようと作業すること自体が大事。人生は、自分はこれをやるんだというものを見つける競争です。教育はそれを後押しするべきです。灘の切磋琢磨のような方法はその1つだと思います。